「お前、アホか」 ディープを本命にせず怒られた有馬記念、調教捜査官が“人気薄予想”を変えた日
2006年有馬記念で有終の美を飾ったディープインパクト
中央競馬は今年の総決算となるG1有馬記念が22日、中山競馬場の芝2500メートルを舞台に発走となる。今年はG1馬が10頭出走予定という超豪華メンバー。調教を通じてさまざまな視点から過去のG1レースを振り返る企画「調教捜査官の回顧録」を寄稿する競馬ライターの井内利彰氏にとっては、自身のスタイルの修正に至ったという思い出深いレースだ。渾身の予想に「文句を言われた」という後日談にスポットを当てた。 【動画】「今見ても異次元」「動きがゲームすぎ」 ディープインパクトが道悪でも飛んだレース映像 ◇ ◇ ◇ 2006年有馬記念。単勝1.2倍の圧倒的1番人気に支持されたのが、前年の有馬記念で2着に敗れていたディープインパクト。ここが引退レースとなったが、その直前、3着に入線していた凱旋門賞について、レース後に禁止薬物が検出されたということで失格処分が発表されていた。そういったことはあったものの、ジャパンカップを勝利、有馬でも2着に3馬身差をつける圧勝。有終の美を飾った。 有馬記念から数日経った年明け、厩務員で親しくしている人たちとの新年会があり、そこでディープインパクトの話になった。 「井内、有馬記念は馬券当たったんか?」と聞かれ、「いや、当たってないんですよ」と答えると「ポップロック(6番人気2着)は人気なかったもんな」と慰めの言葉をかけられたが、こちらは「いやいや、本命がアドマイヤフジだったから」と惜しくもなんともなかったですよ、という顔で返した。 この言葉を聞いた途端、その人の顔色が変わった。そして「お前、アホか」という出だしから淡々と説教をされた。お酒の席ということもあり、周りは「また始まった」みたいな顔で見守り、きつい言葉が出たりすると「井内くんもいろいろ考えて予想してるんやから」と助け舟を出してくれる。確かにどんな馬に本命を打とうと予想する方の勝手だ。もし、ディープインパクトがその人の担当馬で、それまで取材でお世話になっていれば、お前は今まで何を聞いてたんやと怒られても納得できるわけだが……。 ちなみにその人物は当時、インティライミという馬を担当していた立山勇厩務員。そう、この馬はディープインパクトが勝った日本ダービーで2着だった。インティライミは京都新聞杯を勝って、意気揚々とダービー参戦。単勝2番人気だった点からも「あのディープに勝てるならこの馬かも」という期待はあった。