「お前、アホか」 ディープを本命にせず怒られた有馬記念、調教捜査官が“人気薄予想”を変えた日
勝てるかも…の期待からあっさりかわされた2着
レース当日は東京競馬場で観戦したが、内からインティライミが抜け出した時に「やった!」と叫んだが、それも束の間、あっさりと外からディープインパクトにかわされてしまった。 「お前もあのレース観たやろ。テツ(佐藤哲三元騎手)があれだけ完璧に乗ったのに、結局5馬身も離された。だからディープが負けることはないと思って、ずっと見ていたし、有馬記念でハーツクライに負けたけど、あの後、ハーツクライは海外(ドバイシーマC)で勝ったもんな。だから、あの馬を負けるって予想するなんてありへえんよ」 今まで、立山さんにはたくさんご馳走になってきたが、自分が予想した印で文句を言われたことなど一度もなかった。だからこそ、この言葉は自分の心にめちゃくちゃ響いた。決してアドマイヤフジが悪かったわけではない、ディープインパクトに本命を打たなかったことが悪かったのだと自分なりに解釈した。 当コラムの菊花賞回で『できるかぎり人気薄から本命を選ぶという予想が続きます。ただ、このスタイルについてはあるレースをきっかけに変化するのですが、それはまたの機会に』という一文を入れていたが、それがこの時だった。 ただ、強い馬ならすべて「◎」を打とうと思ったわけではない。自分が予想の根幹とする「調教分析」において、不安点があれば軽視する。このスタイルは変えていない。だから単勝1.6倍の圧倒的支持を受けていたオルフェーヴルの引退レースとなった2013年有馬記念では、いつものような調教内容でなかったことで「○」評価としたが、レースでは圧勝された。当然ショックを受けたが、レース後に池江泰寿調教師が「完調ではなかったが、結果を出してくれた」というコメントを発表してくれたことで調教予想としては間違っていなかったと自分なりに理解はしたつもりだ。 今秋、ドウデュースに「◎」を打ち続けることができたのも「ダービーでイクイノックスに勝った馬が他の馬に負けるわけがない」という『信じる気持ち』を持ち続けることができたから。そこには当然、調教が良かったという根本的な理由はあるが、レースを観て「この馬、すげえ」と思った気持ち。G1でもビッグレースになればなるほど、これを忘れてはいけないような気がする。 井内 利彰 / Toshiaki Iuchi 調教をスポーツ科学的に分析した適性理論「調教Gメン」を操る調教捜査官。競馬予想TV!(フジテレビONE)に出演中。JRAの競馬場、ウインズのイベントに出演し、JRA主催のビギナーズセミナーの講師としても活躍。著書に「競馬に強くなる調教欄の取扱説明書」「調教Gメン-調教欄だけで荒稼ぎできる競馬必勝法」「調教師白井寿昭G1勝利の方程式」などがある。
井内 利彰 / Toshiaki Iuchi