21万人の「本音」をブランド成長の「インサイト」に。ファンコミュニティ読み解く アテニア のトレードオン思考
インサイトにどこまで迫れるか
DD:コミュニティを運営していくなかで、難しさを感じることはありますか。 春田:コミュニティには本音があふれているとはいえ、それを読み解くスキルも必要です。お客さまはわかりやすく「私たちのインサイトはこれです」と話しているわけではありません。 そこで話されている悩みの裏側にあるものは何か、その言葉を発する背景は何か。それを読み解く力をもっと高めていきたいと考えています。 DD:春田氏が大切にしているマーケターとしての視点はどのようなことでしょうか。 春田:「インサイトにどこまで生々しく迫れるか」ということです。お客さまの声から何を着想できるか、それが深いほど、モノづくりコミュニケーションも一貫性を持って取り組みやすくなります。 AIの進化によって、さまざまな業務が効率化されていきますが、インサイトの着想はAIではまだまだ行きつかない世界だと思っています。 もうひとつは、「トレードオン」の考え方です。これは、アテニアが「品質」と「価格」の両立をコンセプトに掲げていることも一例ですが、トレードオフの関係にあるAとBのどちらかを選ぶのではなく、第3の選択肢を生み出すことが重要です。 お客さまの不の解消に向けて、トレードオンの視点で発想することもイノベーションのひとつだと考えています。
未知のものを生み出すマーケティングはおもしろい
DD:最初からマーケターを目指していたのでしょうか。 春田:入社して最初に配属されたのは電話窓口で5年間、オペレーター業務をしていました。その頃はお客さまとの対話が楽しく、「一生、電話窓口にいたい」と思っていました。途中でオペレーターのマネジメント業務に変わり、問題が起きればエスカレーションして解決することもやりがいがありました。 ところが5年目に本社のマーケティングチームに異動になると、世の中にはもっとたくさんの生活者がいて、さまざまな思いが存在することに気づきました。マーケティング業務のなかで世界が大きく開けて、マーケターに興味が湧いていきました。 DD:マーケティングスキルはどのように伸ばしたのでしょうか。 春田:メーカーとしてのモノづくり、そしてコトの重要性、最近ではケイパビリティといったように、マーケティングの潮流や立場の変化を通じて、学びを深められたと思います。アテニアの強みについて、商品やサービスという観点はもちろんのこと、組織能力としてどんな人材が必要か、どのような企業風土が必要か、個々の強さがどうブランディングに寄与できるか、ということを考えられるようになっていきました。 また、経験を通じて中長期的な視点を持つことの重要性も学びました。会社が持続的に成長していくために、目の前に山場をつくらず、持続的に成長していくなかでマーケティングをセットしていくことを重視しています。それは、若い頃に短期的な打ち手で失敗した経験があったからです。 インパクトを追い求めるあまり、たくさん痛い経験もしてきました。そういった経験を経て、中長期的な視点を持つことができました。 DD:マーケティングでもっともおもしろさを感じるのはどんな部分でしょうか。 春田:答えがないことです。セオリーが通用しない、1+1が2ではない世界だと思っています。何がつくれるかはマーケター次第で、未知のものを世界に生み出せる楽しさがあると感じています。 Written by 島田ゆかり Photo by 三浦晃一
編集部