藤枝内定で湧き上がった周囲への大きな感謝。柏U-18GK栗栖汰志は残された2か月でアカデミーにもたらせるものを探し続ける
[10.14 プレミアリーグEAST第18節 柏U-18 1-0 横浜FCユース 日立柏総合グランド] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 憧れ続けてきたプロサッカー選手というステージまでたどり着けたのは、自分の力だけが理由でないことなんて、誰よりも一番よくわかっている。今まで関わってきてくれた方々への大きな感謝を胸に抱き、今はまだ想像もできないような世界の扉を開ける大きな野望を胸に秘め、ここから力強く羽ばたいてやる。 「ここがゴールではないですし、本当にスタートラインに立っただけなので、高卒でプロになっても数年で消えてしまう選手も少なくない中で、その消えてしまう選手になるのか、活躍してどんどん世界に羽ばたいていけるような選手になるのかは、ここで過信しないことが大事で、藤田さんもいつも『自信と過信は紙一重』と話しているので、自信は持ちながらも、しっかり地に足を付けて、常に自分の成長を考えて、やっていければいいなと思っています」。 柏レイソルU-18(千葉)を最後尾から牽引している、背番号1を託された不動の守護神。GK栗栖汰志(3年=柏レイソルU-15出身/藤枝内定)は来季から飛び込む新たな舞台への準備を整えながら、残された時間でこのアカデミーにもたらせるものを探し続けている。 「今日は大事な場面でシュートを止められるシーンが多かったなとは自分でも思います」。プレミアリーグEAST第18節。横浜FCユースをホームで迎え撃つ90分間を終えたばかりの栗栖は、自身の果たした仕事に小さくない充実感を覚えていた。 前節終了時点で4位の柏U-18と、首位を走る横浜FCユースの勝ち点差は9。「もう本当に目標にしてきたものが、この首位相手に勝てないと一気になくなってしまうというゲームの中で、それは自分が言わなくても選手全員がわかっていました」。まさに勝利だけを義務付けられた一戦。黄色いユニフォームに身を包んだ選手たちは必勝を期して、慣れ親しんだ日立台のグラウンドへと駆け出していく。 前半9分。相手の打ったミドルシュートからのディフレクションが、嫌な位置に転がってくる。フォワードと味方のディフェンダーも突っ込んでくる中で、栗栖はボールを見極めると、身体で面を作って冷静にセーブ。まずは1つ目の危機を丁寧に凌ぐ。 45+2分。大きなピンチが柏U-18を襲う。右サイドを単騎で抜け出され、相手フォワードと栗栖は1対1に。だが、ここも焦らず、騒がず、ギリギリまで動かずに待ち続けた守護神は、際どいシュートを右手1本で弾き出す。 「前半をゼロで抑えることが今日のゲームプランの中では非常に大事でしたし、あの場面もフィールドの選手たちがしっかり走って守備もしてくれたので、しっかり準備ができて、セーブできたのかなと思います」。思わずガッツポーズも飛び出したキャプテンの、チームを救うファインセーブ。0-0で最初の45分間は終了する。 後半に入ると10番のFW戸田晶斗(3年)が先制ゴールをゲット。柏U-18は1点をリードしたまま、試合は終盤へと突入していく中、40分に決定的なピンチがやってくる。今度は左サイドから侵入を許し、中央から放たれたシュートは枠を捉えていたものの、飛んできたボールに対して栗栖は懸命に身体を伸ばす。 「あそこで失点してしまったら結果は変わっていたと思いますし、今シーズンはああいう大事な場面を止められるキーパーになろうと思ってきたので、結果として現れて良かったなと思います」。両手で軌道を捻じ曲げたボールは、ゴールの外へと逸れていく。再び繰り出したビッグセーブ。絶対に失点は許さない。 ファイナルスコアは1-0。「試合が終わった時にフィールドの選手が倒れていたように、みんな走ってくれて、戦ってくれて、粘り強くやってくれて、その結果としてシュートが来た時に自分が止められたのかなと思います。本当に今シーズンで一番試合が終わった後にやり切ったなという感じでしたね。最高でした」(栗栖)。粘り強く戦った末に、“ウノゼロ”での首位撃破。柏U-18は3位に浮上。残り4試合へ逆転優勝の可能性を繋ぐことに成功した。 9月23日。J2の藤枝MYFCから栗栖の来季加入内定リリースが発表された。「夏にレイソルのトップに上がれないことがわかったんですけど、自分の中では高校を卒業したらそのままプロの舞台で戦いたい気持ちがあったので、その中でいろいろな機会が重なって、藤枝MYFCさんにチャンスをもらって、練習参加することになりました」。 練習参加の期間は1週間。足元の上手さに特徴を持つプレースタイルと、チームのアグレッシブなスタイルがマッチしていることは、自分でも感じられたという。「『もうこのチームで契約を獲りに行くぞ』という気持ちで、とにかく結果を残さないといけないと思ったので、貪欲にやりました。自分の中でも手応えは少なからずありましたね。藤枝のサッカーのスタイルも攻撃的で、キーパーもどんどんそこに入っていくという中で、自分の武器も重なって、そこでしっかり求められているものを出せたのかなと思います」。 栗栖が携えているもう1つの大きな武器は、的確な指示とチームメイトへの鼓舞を兼ね備えた90分間途切れない“声”。そのストロングも存分に発揮する。「自分の良さの『喋れること』とか、『コミュニケーションを取れること』とか、そういう部分も意識しながらやれたのかなと思います」。 藤枝から正式なオファーが届いた時、まず心の中に湧き上がったのは、自分のために尽力してくれた周囲の方々への感謝だった。「契約を勝ち獲れたのは自分の力だけではなくて、他のJクラブに行くというのはなかなかない形ですし、本当にいろいろな大人の方が協力してくださったので、周りの方に感謝した上で、自分もチャンスを掴めたのは良かったと思います」。いつだって自分は1人じゃない。支えてくれる人たちの期待を背負い、栗栖はプロの世界へと歩みを進めていく。 栗栖を3年間見守り続けてきた藤田優人監督は、“らしい”言葉でその成長の跡を語っている。「最近はこちらがベンチから言おうとしたことを先に言ってくれることが多くて、だいぶ人間性の部分で成長してきたなと思います。そこが安定感に繋がっているんじゃないですかね。まあ、安定してもらわないと困るんですけど(笑)」。 何回か会話を交わせば、その優れた人間性は十分に感じることができる。大人とも過不足なくコミュニケーションを取れるパーソナリティも、実にプロ向き。あとはゴールキーパーとして成長を続け、その実力をピッチで示していくだけだ。レイソルの選手として戦うことのできる最後の2か月に向けても、もうやるべきことは整理されている。 「今日の試合みたいなパフォーマンスが増えれば、自ずと勝利は増えてくると思うので、まずは『勝負を決められるキーパーになる』という個人の目標もありつつ、今年はキャプテンという立場もあるので、1年生と2年生が来年も良い方向へ進んでいけるように、自分が示せるものというのはプレーでもプレー以外でもあると思っていますし、自分の成長とチームに対して何を残せるかという、この2つを両立させながら、残り2か月を過ごしていきたいと思います」。 小学生時代から濃厚な時間を過ごしてきた、アカデミーでの集大成。自らの持てるものはすべてをこのチームのために出し尽くす。柏レイソルU-18を圧倒的なエネルギーで包み込んできた2024年のキャプテン。栗栖汰志は日立台のピッチに立つ最後の1日まで、一歩ずつ成長を続けていく。 (取材・文 土屋雅史)
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