原発ゼロの夏、電力は十分に足りているのか?
2014年、日本は東日本大震災以降、初めて原発稼働ゼロの夏を迎えます。ネットなどでは「なんだ電気、足りてるじゃん」などという声が聞こえてきます。しかし、十分に電力が足りているかというと、実は少し心もとない状態で、国や政府はこれまで以上の節電を国民に訴えています。どういう事情があるのでしょうか?
急場をしのいだ電力融通
電力が十分に足りているかどうかを知るために「供給予備率」という指標があります。この数字が大きければ大きいほど電力の供給に余裕があることを示しています。地域にもよりますが、7~8%あれば余裕があり、最低でも3%は必要だと言われています。この数字を維持しないと、電力需要をまかなえず、大規模な停電が起きるおそれが出てくるのです。 今年の夏(8月)は、北海道電力、東北電力、東京電力の3社を合わせた東日本側の予備率見通しは6.9%でした。これに対し、沖縄をのぞく中部電力から西側の電力会社6社を合わせた予備率は2.7%でした。西日本側の供給予備率が3%を切った原因は、原発に匹敵するほど大きな出力を持った松浦火力発電所(長崎県)の2号機が事故で3月から稼働を停止したことにあります。もちろん福井県の大飯原発も稼働していません。 このままでは、西日本側が危ない水準なので、東日本側の東京電力の電力を西日本の関西電力と九州電力に融通することにしたのです。この電力融通は震災後初めてのことです。 東日本と西日本では電気の周波数が50ヘルツ、60ヘルツとそれぞれ異なっており、周波数の変換をしなければならないのですが、この電力融通によって、東日本側と西日本側の予備率はそれぞれ6.1%と3.4%になり、最低限の水準を維持できる見通しが立ちました。このおかげで、すぐに停電になるような事態は避けられたのです。
老朽火力がフル稼働
「電力が足りてよかったね」と思うかもしれませんが、ことはそう簡単ではないのです。すべての原発が止まっている今、日本の電力を支えているのは火力発電所です。しかも、いつ引退してもおかしくないくらい古い火力発電所(稼働40年以上)が現役としてフル稼働しているのです。 この古い火力発電所のことを「老朽火力」と言いますが、老朽火力への依存度は、震災前の2010年度と比べて倍に増えています。古い発電所はいつ止まるか分かりません。予期しない老朽火力の停止は、震災前の1.7倍にもなっています。 野球やサッカーで言うと、選手の欠員補充のため、引退間近の“おじいちゃん選手”が参加して老骨に鞭打っている状態と言っていいでしょう。いつ倒れるか分かりません。 このように、いま動いている火力発電所も何らかの原因で急に止まってしまう可能性が常にあるのです。そうなってもすぐに大停電が起きる状態ではないと言いますが、こういうわけなので、今年の夏は、これまで以上に節電に気をつけなければならないのです。