学校施設の津波対策「逃げ出す学校」「逃げ込む学校」/矢守克也・京都大学防災研究所教授
学校の安全性、地域住民の避難対策に位置づけて検討すべき
「逃げ出す」ことが必要な学校では、「助かる教育」、つまり、避難訓練など、自分の身を守るための学習や教育が主軸にならざるをえない。しかし、「逃げ込む」場としての学校では、「助ける教育」も重要だ。ここで、「助ける教育」とは、たとえば、学校で避難生活をおくる地域住民を子どもたちがサポートすることを促し支援するための教育である。実際、阪神・淡路大震災であれ東日本大震災であれ、被災地のそこここで、援助物資の受け入れや配布、炊き出し、教室やトイレ等の清掃、情報掲示板の設置や管理など、非常に多くの場面・側面で子どもたちが活躍したことが報告されている。 他方、「逃げ出す」必要がある学校でも、「助ける教育」が重要になるケースもある。たとえば、著名な「釜石の奇跡」では、「率先避難者たれ」と指導を受けていた中学生たちは自ら「逃げ出し」つつ、同時に、小学生の手を引き、近所の人に避難を呼びかけた。要するに、率先避難は、「助かる」ことと「助ける」こととは常に矛盾するわけではなく、両者が共存する場合があることを物語っているのだ。 そもそも、子どもたちが学校にいる時間は、24時間365日のうち2割以下である。全時間の8割以上は、子どもたちは学校にはいない。「津波、学校、対策」と聞いて、学校にいる子どもたちの避難対策と等値するのは、いささか短絡的である。学校施設の安全性は、子どもたちを含めた地域に暮らす人びと全員の津波避難対策の中に位置づけて検討されるべきである。 (矢守克也/NPO法人日本災害救援ボランティアネットワーク理事) ■矢守克也(やもり・かつや) 京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授。同阿武山観測所教授、人と防災未来センター上級研究員などを兼務。博士(人間科学)。専門は防災心理学。著書に「被災地デイズ」、「巨大災害のリスク・コミュニケーション」など。開発した防災教材や訓練手法に「クロスロード」、「個別避難訓練タイムトライアル」など