「完璧な医療体制」「食事は有名シェフが監修」のはずが…夫を高級老人ホームに入れた妻が「大後悔した」意外なワケ
「娘を甘やかしすぎた」
2週間に一度、会長宅への往診が始まった。立ち会ってくれたのは患者の妻で、話してみると苦労人で常識人だということがわかった。 長女は都内で暮らしており、普段はいないという。それを聞いて思わず私がほっとすると、その一瞬の表情を見逃さず、「娘は、少し甘やかしすぎた」と悔やんでみせた。 「この前もエコの時代だからと電気自動車を私たちにねだってきたのよ。娘といっても還暦も近い年なんだから、自分の小遣いで買えばいいのに、未だにおねだりをしてくる」 小噺のように仕立てて、笑いながら話してくれた。 壁に飾られた夫婦の写真は作業服姿のものも多く、工員たちと一緒に写っているものも多かった。2人でトタン屋根の作業場から仕事をはじめ、従業員を雇い、少しずつ会社の規模を大きくしていったという。会社の成長記録は、二人三脚で歩んだ夫婦の歴史のようにも見える。 「私も工員のみなさんの賄いを作りながら、一緒に働いていたのですよ。いつだって作業服でいたから、銀行員が来ても私が社長夫人だなんて、誰も信じてくれなかった」 元社長夫人は介護ベッドで横たわる夫を見つめながら、うれしそうに私に話してくれた。一方で夫は「眠る時間がどんどん増えている」という、認知症と老衰による廃用性症候群が進行しているようだった。
長女が介護サービスを拒否したヤバい理由
夫は、身体的にも認知症的にも生活全般にわたって介護を要する状態だ。要介護3はつくと考えた。ケアマネジャーをつけて、デイサービス、訪問看護介護等を利用すれば、腰痛と闘いながら介護を続けている妻の負担は軽減されるだろう。 それらをひとつずつ説明し、今後どうしていきたいか尋ねると、「私は、最期まで夫と一緒にいたい。その介護保険とやらで、夫も私も少しでも楽に過ごすことができたらいいわね」と言って夫の手を握った。 ところが、ことはうまく運ばなかった。それを聞いた長女が激怒したのである。「今すぐ折り返しの電話が欲しい」と事務所に連絡が入り、携帯電話から電話をかけると、 「なんで私の父が、国のお世話にならなくちゃいけないんでしょうか? 私の父に情けないことをさせないで下さい」と拒否してきたのである。私も応戦し、介護サービスを使うことが恥ずかしいことではないことを説明したが、ダメだった。 この二人に必要なのは、夫の弱った体を介護する人材が必要なのだが、「父には相応しい人をつける」と言って聞かず、資産家の御用達だという家政婦派遣所から、料理が上手だという家政婦を入れてしまった。そしてたまに訪れては弱っていく父親をみて、それを母の落ち度だと責め立てた。
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