宇宙太陽光発電の実現へ、高度7キロから地上へ送電実験…来年度はISSと同じ450キロから実験
一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(JSS)は4日、航空機から地上に向けてマイクロ波を発射する「長距離無線送電実証実験」を長野県諏訪市の霧ヶ峰高原グライダー練習場で実施した。将来の宇宙太陽光発電システムの実現に向けた実験で、年間を通した安定的な電力供給につながる可能性がある。参加者からは「想定通りのデータが得られた」との声が聞かれた。(笹森春樹)
実験は、JSSが経済産業省の委託を受け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や大学・企業関係者らの協力を得て実施。送電部を搭載した航空機(ビジネスジェット機)が、高度7キロ・メートルを周回飛行しながらマイクロ波をグライダー練習場に向けてビーム状に発射し、受信装置がある13か所で観測した。
同練習場は標高約1700メートルあり、航空機と地上との距離は5キロ・メートルを超える。JSSによると、「航空機から地上へのキロメートル級の長距離送電実験は世界初」という。
実験の目的は、限られた範囲に電波を集中させるビーム形成技術や、形成したビームを狙った場所に当てる方向制御技術の獲得にある。観測結果の解析などを担当した東洋大学理工学部の藤野義之教授は「想定されたビームの振り方になっている。電波の強さも想定通りだ」との感触を口にした。
宇宙太陽光発電システムは、宇宙空間に太陽光発電パネルを並べ、宇宙で発電した電気を地上に送り、地上で電力として使用する技術。宇宙空間では地上に比べ10倍の効率で太陽エネルギーを利用できるといわれている。
今回の実験を踏まえJSSは来年度、現在開発中の専用の衛星を使い、宇宙ステーションと同じ高度450キロ・メートルから地上に向け送電する実験を予定している。最終的には2050年までに、高度3万6000キロ・メートルの静止衛星軌道に同システムを展開し、商業運行させるという。
JSSの柳川祐輝・衛星観測事業本部副本部長は同システムについて「運転中に廃棄物を生じないクリーンな発電所であり、年間を通し24時間安定的な電力供給が可能。地上側のシステムも土地を覆う必要がなく、山野の保護や土地利用の観点からも優れている」と意義を強調する。