コスパ最強スーパー「ロピア」 売上高10年で7倍の秘密
OICグループの源流は神奈川県藤沢市の精肉店にある。もともと肉の仕入れが得意だが、近年は牛の一頭買いやグループの養鶏農場からの仕入れにより、品ぞろえと値ごろ感を両立している。肉や魚といった生鮮品は消費期限が短く、いかに短期間で売り切ってロスを減らせるかが利益確保の鍵。「生鮮品は回転率が高まると売り場の鮮度が上がる」(OICグループで経営戦略を担当する浜野仁志取締役)。ロピアでは高い集客力で在庫を回し、売れ残りを減らしている。 ロピアは肉に限らず、「コスパ最強」を掲げている。「同じ商品ならより安く」「同じ価格ならより良いものを」──。各店舗の入り口にはモットーを掲示している。 こうした理念を支えるのが独自商品の開発だ。港南台バーズ店を車で訪れた女性客は「ここでしか買えない商品が魅力的」と話し、買い物かごに入った味付けのりを見せてくれた。グループ企業が神奈川県内ののりメーカーと共同開発し、ロピアのプライベートブランド(PB)商品で売り上げ上位に入る。 同時に価格競争力を引き出すため、運営面では大胆なコスト抑制策を打ち出す。「商品を大容量にして売ることで包装の手間を減らす」「飲料は冷蔵せずに常温で棚に並べて電気代を抑える」──などが一例だ。ロピアの来店客の大半は食料をまとめ買いする「買い出し」が目的。コンビニのように買った商品をすぐに消費する顧客は少数派だ。それなら飲料は自宅で冷やしてもらえばいいわけだ。 ●現金払いのみ、ポイントもなし 加えて、一部店舗を除いて支払いは現金のみ。クレジットカード決済などの手数料負担分を販売価格の引き下げに回すためだ。他社が力を入れるポイントカードによる顧客の囲い込みや、ネットスーパーにも手を出さない。リアルな買い物の楽しさが感じられない電子商取引(EC)は「ロピアが掲げる食のテーマパークの対極にある発想」(浜野氏)と距離を置く。 米コンサルティング大手A.T.カーニーの岡野卓郎パートナーは「決済手段を現金に限るなど、何をあえてしないかを明確にし、付加価値を出すポイントを絞り込む一貫性を持った方が利益率や成長率を高めやすい」と指摘する。網羅的に取り組むと「いずれも『平均点』にとどまって他店に顧客が流れる恐れがある」(岡野氏) 一方、店舗のデザインにはこだわる。内装や商品パッケージは内製化し、担当するロピアの店舗デザイン部には約15人が在籍。東京・丸の内のオフィスでデザイナーが黙々と「柚子(ゆず)」「海老アヒージョ」といった商品パッケージに使う文字を手で書いていた。内装には各地域の特色を反映し、店舗ごとに個性を出す。店舗デザイン部の部長は「ディズニーランドのような店舗をつくりたい」と話す。 また、ロピア店舗内の精肉や青果、鮮魚の各売り場は「肉のロピア」「八百物屋あづま」「日本橋魚萬」と別々の屋号がつき、売り場ごとに装飾の色使いを変えている。浜野氏は「ロピアはいわば個人商店の集まる『商店街』」と話す。 ●「ヒト・モノ・カネのすべて委譲」 一般的なチェーン店では本部が商品を一括で買い付けたり、PB商品を開発したりする。店長は本部の指示に基づいて店舗を運営し、売り場ではパート店員がマニュアルに基づいて作業する。企業にとって管理しやすい利点があるものの、店が画一的になりがちだ。 ロピアでは各売り場の責任者(チーフ)に多くの権限が委譲され、パート店員の採用から仕入れ、商品開発、予算管理、値付けまで担う。冒頭の港南台バーズ店の精肉部門チーフは「ヒト・モノ・カネのすべての権限が委譲されている」と語った。権限委譲によって売り場間の競争を促し、店全体の競争力向上につなげているのだ。 現場が競争力の源泉となるだけに、OICグループは創意工夫を促す報酬体系を整える。チーフには店舗売上高などの成果に応じて賞与を支給。20代の社員でも働きぶり次第で年収が1000万円に達する。チーフ職の中途採用には他の食品スーパー社員や精肉店の従業員がこぞって応募する。 流通アナリストの中井氏は「従来型のチェーンストアは変わり目に来ている。代表格の一つだったイトーヨーカ堂が、一部店舗を新興勢力のロピアに引き継ぐのはその象徴的な出来事だ」と指摘する。 パート社員を安く雇って人件費を抑え、利益を確保する手法は立ち行かなくなっているとも言える。優秀な人材には多額の報酬を提供し、競争力のある売り場をつくり出すロピアは、インフレ時代の新しい小売りの成長モデルとなり得る。
梅国 典