堤聖也「ずっと胸に残っているしこり」高校時代に敗れた井上拓真との12年越しのリベンジマッチ
プロボクシングWBA世界バンタム級2位の堤聖也(28=角海老宝石)が、12年越しのリベンジへ“瞬間の勝機”にかける。 高校2年のアマチュア時代に敗れた同世代の同級王者・井上拓真(28=大橋)への挑戦(13日、東京・有明アリーナ)を控えた4日、都内で練習を公開。欠点の少ない攻防兼備の王者に対して「展開がズレた瞬間を突いて崩す」と戦略法を語った。 この12年間、堤にとって井上は「ずっと胸に残っているしこり」のような存在だった。 九州学院高2年のインターハイ準決勝で判定負け。平成国際大でボクシングを続けたが「アマチュアで辞めるつもりだった」。ところが、高校時代にしのぎを削った井上ら同世代の選手がプロで王者になる姿を見て翻意。「自分がどこまでいけるかやりたくなった」。18年に井上の背中を追ってプロデビューした。 プロ戦績は11勝(8KO)2分けと無敗だが、順風ではなかった。5連勝後は2試合連続で引き分け。その後はコロナ禍で1年8カ月も試合ができず、白星からは3年以上も遠ざかった。 昨年12月の日本バンタム級王座4度目の防衛戦では、挑戦者の穴口一輝選手が試合後に意識を失い、開頭手術を受けた後に亡くなる悲劇も起きた。「特に考えてはいないが、穴口選手だけじゃなく、自分の試合で引退した選手への思いは常にある」(堤)。 3度目の防衛戦となる井上は、プロ11年のキャリアを誇り、スピードと高い防御技術に定評がある。攻略は簡単ではないが「全体的な時間では拓真選手が上回るでしょう。でもボクシングは瞬間、瞬間で展開が動く。気持ちでもパワーでもどの部分でもいいので、その瞬間に自分が上回ったら、コロッと展開がズレる。そのズレたところを突いていくと崩れていく。そうすると僕の展開になる」と、堤には攻略の糸口は見えている。 公開練習を視察した井上が所属する大橋ジムの大橋秀行会長(59)は「(堤には)人間力、目に見えない力強さを感じる。見づらい角度がくるフックは警戒するパンチ。魂と魂がぶつかり合ういい試合になる」と、挑戦者の気持ちの強さに警戒感を強めた。 高校、大学を通じたアマチュア時代、堤はトップ選手だったが、最高成績は大学1年時の国体準優勝で、3位が6度。優勝は1度もない。ここまでボクシングを続けてきた原動力について「ずっと1番になっていない劣等感」と即答した。追い続けた井上との再戦が“世界で1番”をかけた大舞台でついに実現する。「今は澄んだ気持ちで、ただ井上拓真という強い選手と戦えるのがシンプルに楽しみ」。井上とのリベンジマッチは堤にとって、風雪のボクシング人生の集大成でもある。【首藤正徳】