衛生悪化、下痢に苦しむロヒンギャ難民……日赤医師が語る難民キャンプの今
避難生活は長期化。厳しい環境で体調崩す日本人医療スタッフも
そこで日本赤十字社は、これまでに総勢120人の医療スタッフを難民キャンプに派遣。中には厳しい難民キャンプでの活動で体調を崩すスタッフもいたそうです。小林さんはどうだったか尋ねると、「自分は幸いお腹の調子が少し悪くなるくらいでした。」と答えました。 支援者にとっても厳しい環境下で、日本赤十字社は昨年9月から今年4月末までは、仮設診療所を開設し患者の診察や治療などの緊急医療支援を継続してきましたが、現在は地域保健など中長期的な事業に移行し始めています。 ロヒンギャの人々のミャンマーへの帰還のめどは未だ立たず、避難生活が長期化している状況です。そうした中、緊急医療支援を続けるだけではなく、自分たちの生活やコミュニティーを自らの手で守っていく力をつけてもらうことを目的に、ロヒンギャボランティアを募って業務の引き継ぎや教育を並行して実施しているのだそうです。 また、医療支援と聞くと、病院での診察や治療を一番にイメージしてしまいますが、最も大切なことは病気が発生しないように予防することであり、そのために保健事業が基本になるといいます。いざという時に彼ら自身で対応できるよう、小林さんらは救急法の講習会を実施し救急セットを配布するなどノウハウも伝えてきました。 しかしながら、まだまだ課題も多くあります。現場で患者の処置を行うなどの技術的な面は向上してはいますが、医療データの管理や何か問題が発生した際に組織的に解決していく力は十分とは言えないそうです。現段階では、赤十字スタッフがマネジメントしている状況にあるので、今後も長期的に教育支援を継続していく必要に迫られているそうです。
文化や風習を尊重しながら
小林さんたちが、現場での支援を続ける中で気をつけていることは、ロヒンギャの人々の文化や風習、考えを尊重しながら活動を行うことだといいます。 彼らの多くはイスラム教徒であり、ラマダン(断食月)中は日中飲食をしません。今年は5月半ばから6月半ばにかけての1カ月間がそれにあたり、その間は日中水も飲まないため、本来1日に3回処方する必要がある薬を2回にするなどして対応しました。 ロヒンギャは、ミャンマーにもバングラデシュにも受け入れられない無国籍の民であり、難民としての暮らしを余儀なくされていますが、敬虔なイスラム教徒であり彼ら独自の文化や風習を持った人々です。 小林さんをはじめとした赤十字スタッフは、長く時間を共にする中で、ロヒンギャの人たちと家族のことやラマダン明けのお祭りのことなどプライベートについても話をするようにしています。そうして一人一人の個性を知り、信頼関係を構築しながら活動を行うよう気を配っています。 「難民キャンプ地は、雨季に入り、厳しい環境になっていますが、実は彼らの故郷も似たような環境で、そうした状況には慣れている、といった意外な話が聞けることもある」と小林さんは言います。 今後も支援活動に参加してみたいか、尋ねてみました。 「チャンスがあれば、再び難民キャンプへ行って支援活動に従事したい。そして共に活動したロヒンギャボランティアの成長を見てみたい」 熱意のこもった小林さんの答えが印象的でした。