「無宗教ダメ」「寺で葬儀」…霊園開発めぐり条件続々 住職殺害男が募らせた憎悪 法廷から
住職は「墓地が売れても売れなくても15年で全社撤退する」などの条件を追加するよう要請。2年9月の霊園オープン直前には、霊園の名称変更を求めてきたという。
■住職に土下座で「嫌がらせ」決意
極めつけは、購入条件を巡る対立だった。
被告によれば、住職はオープンの数カ月後には「無宗教の人は受け付けない」と告げ、「戒名をつけること」「寺で葬儀をあげること」といった条件も出したという。
住職の意向で管理費を値上げしたこともあり、墓地の販売は伸び悩んだ。顧客からのクレーム対応に追われ、他の石材業者からは「ちゃんと住職をグリップしてほしい」と苦言を呈されたという。
「最初の話と違う」と住職にかけあっても、状況は改善しなかった。度重なる住職の要求に「各石材業者はやる気をなくしていった」(被告)。営業から撤退する業者も出た。
そして、決定的な出来事が起こる。
5年7月9日、納骨に必要な「墓地使用承諾書」の即時発行に応じられないとする住職に、被告が土下座。弁護側はこのとき、被告が「住職に嫌がらせをして、恨まれていることをわからせたい」と考えた、と主張している。
■判決は「理解できないわけではない」としつつも…
その後、「硫化水素自殺」「練炭」などに関するウェブサイトを閲覧し、練炭やガソリンを購入した被告。納骨が予定されていた前日の同月22日夜に、役員の女とともに納骨堂に練炭を設置。すべてに着火して現場を離れた。翌朝、納骨堂に入った住職はCO中毒となり、亡くなった。
地裁判決は「住職に対する強い殺意が認められる」と指摘。「他の関係者が入らないようにする措置も講じていない」とし、1人を殺害、2人にけがをさせた結果は重大だとした。
霊園事業を巡るいきさつについては「住職に対して不満を募らせたことは、全く理解することができないというわけではない」としつつ、「殺害に及ぶ理由として酌むことはできない」と退けた。
検察、弁護側はいずれも控訴せず、判決は確定した。(滝口亜希)