”飲める金“とも、少数民族が1000年守る世界で唯一「古茶林」のプーアル茶、どんな味?
雲南省の生産地は世界遺産に、商品価値が高まる長期熟成、最低10年は寝かせる生産者が多い
茶は飲み物のなかで、水に次いで世界で最も人気がある。年間の消費量は、推定で1700億リットル。緑茶や紅茶、ウーロン(烏龍)茶など、種類はさまざまあるが、いずれも原料は同じチャノキ(Camellia sinensis)で、それぞれ製法が異なる。19世紀初頭に、英国が植民地であったインドにチャノキを持ち込んでからは、世界各地で栽培されるようになったが、それ以前は中国が独占的な地位を保っていた。 ギャラリー:”飲める金“とも、世界で唯一の「古茶林」とプーアル茶 写真と図解17点 だが中国南西部の雲南省の景邁(チンマイ)山には、この土地と深く結びついた特別な茶が、今も1種類残っている。プーラン族と、この地域に暮らすもう一つの少数民族であるタイ(傣)族は、チャノキの亜種であるアッサム種のチャノキ(Camellia sinensis var. assamica)の「古茶林」を千年以上にわたって守ってきたとされる。 アッサム種は紅茶の原料でもあるが、この地では、深い色合いと豊かな風味をもつプーアル(普洱)茶が作られている。なかには茶の愛好家たちが”飲める金“と呼ぶほど、珍重されるものもある。 プーアル茶は長期熟成により風味が増し、商品価値が高まる。そのため最低でも10年は寝かせる生産者が多いことが、高額で取引される理由の一つだ。 木の実や大地の香りを帯び、かすかに苦みを感じさせる風味は、中国に増え続ける富裕層の間で、上質なワインにたとえられている。熟成させればさせるほど、より複雑な味わいになり、価値が高まる。 41歳の岩荣(アイロン)の家族は、約4000本のチャノキを所有しているが、利益を出せるようになるまでには長くてつらい時期があった。一家は、2015年に一級品のプーアル茶を扱う高級ブランドと提携を結び、現在では37世帯の茶葉を加工する農業共同体を運営している。近隣の住民たちを作業員として雇い、年間生産量は、約1万トンにのぼる。 ここのプーアル茶は円盤形に押し固められ、熟成を経て包装されたもので、1個357グラムで5万円ほどの値がつく。景邁地域の平均収入は、20年前に比べてかなり上がった。事業を成功させた岩夫妻の年収も、二人合わせて600万円ほどある。これは、近隣の都市の平均世帯収入を上回る額だ。 2023年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、他に類を見ない文化的な価値を評価して、景邁山一帯を世界文化遺産として正式に登録した。茶の栽培に関連した遺産としては現在のところ唯一のものだ。景邁産の茶が、登録の話が持ち上がった10年ほど前と比較して、ほぼ2倍に値上がりしているのは、単なる偶然ではないだろう。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版2025年1月号特集「少数民族が大切に守ってきた世界でここだけの「古茶林」、中国」より抜粋。
写真・文 =ジャスティン・ジン