12歳の少年が見た昭和22年 「真相はかうだ」の真相はどこだ 墨塗教科書で学ぶ僕ら プレイバック「昭和100年」
<当時の出来事や世相を「12歳の子供」の目線で振り返ります。ぜひ、ご家族、ご友人、幼なじみの方と共有してください。> 【写真】戦後の衛生状況の悪さから大量のシラミが発生、子供たちは米軍が持ち込んだ有機塩素系の殺虫剤DDTによる消毒を受けた 戦地から復員したばかりの父が「学校はどうだ」と聞くので「そんなものとっくに空襲でなくなったよ」と言い返してしまった。悪いことをした。最近、僕はつい反抗的になってしまう。なぜなら大人の言うことが信用できないからだ。 父が立派に戦ってきたことはわかっている。無事帰って来たことも本当にうれしい。ただ、ラジオで戦争中のことを明かす「真相はかうだ」や「質問箱」では大本営はウソばかり発表していたとか、本当はもっと早くに日本軍は負けていたとかばかり言っている。じゃあ父はだまされて戦っていたのか、それとも父もウソをついているのか。 この4月から学校の仕組みが変わって新制中学校というものができた。僕の学校は焼けてしまったので、中学用の建物や校庭で授業をしているが、教科書はボロボロで、しかも墨塗りだ。戦中の教科書は使ってはいけないそうで、兵隊さんの話や戦車の絵なども全部真っ黒に塗られている。この間まで正しかったことがすべて間違っているなら、僕は一体何のために勉強してきたのか。 闇市だってそうだ。本当は配給以外で食料を手に入れることは禁じられているはずなのに、母も闇市で米や野菜を買ってくる。配給もほとんどないから仕方がないが、決まりを守らないことが当たり前になっているのはおかしいと思う。 この5月には新しい憲法が施行された。去年の11月に内容が公布された時は「戦争放棄」「国民主権」などの言葉に母や学校の先生たちも喜んでいたが、今はあまり盛り上がっているようには見えない。夏ごろからは食料だけでなく電力不足も深刻になり、停電で工場も稼働できないという。みんな生きていくだけで精いっぱいなのだ。 中学生の教室には「あたらしい憲法のはなし」という冊子が置いてあって「戦争放棄」と書かれた釜の中で軍艦や兵器が燃やされ、中から電車や船、ビルなどが光り輝いて出てくる挿絵が描いてあった。そんなに簡単に光り輝くなら、まずは停電を何とかしてほしい。 4月には新憲法公布下で初の参議院選挙と衆議院選挙があり、日本社会党が第一党になって片山哲首相が誕生した。父も母も「片山さんは労働者の味方だ」と言っていたので僕も期待したが、すぐに内輪もめを起こしたり、国会で乱闘騒ぎが起きたりするだけで生活は少しもよくならなかった。やっぱり大人の言うことは信用できない。
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