【専門家が警鐘】今すぐ確認。誰もが精神疾患になり得るから、絶対にはずせない「たった1つの手続き」
人生は「複線型」。必ず紆余曲折がある
障害年金についていろいろ書きましたが、これらのことから、年金保険料の話はもちろん、制度について「知ることが大切」とわかっていただけたのではないでしょうか。 人は、誰しも精神疾患をかかえる可能性があります。急いで家を出た途端、交通事故で身体障害を負う可能性だってあります。その際、障害年金を受給しようとすると、傷病の初診日の前日時点で、年金保険料の未納期間がないかどうか、どの人も問われることになります。こんなことを知っておくだけで、将来への備えを始められますし、社会で何らかの事柄に遭遇したときも、新たな自身の歩み方を創造しやすくなります。 すなわち、知ることは未来を創造することにつながるのです。 私が発達障害、精神疾患がある人の支援にかかわるようになってから、36年間の月日が経過しました。この間、本人および家族の方々を含めて、多くの人生を追体験させていただく機会に恵まれました。そこでわかったのは、誰しも人生の歩みを単線型で遂げることはあり得ない、ということです。 生きていると、必ずと言っていいほど、紆余曲折があります。自分が、家族が、あるいは大切な人が、発達障害や精神疾患をかかえることとなった、というのも紆余曲折の1つ。 当初、想定された単線型の歩みではなく、複線型の歩みとして、「社会保障制度を活用した暮らし方」という選択肢を知っておくのは大切なことです。知っておくことで、先ほども書いた通り未来へ向かう自分自身の「歩き方」の選択肢が広がることはもちろんのこと、他者の多様性の理解にもつながるからです。 知ることは、やはり意義深いのだと言えます。
失っても・方向転換しても人は「リカバリー」できる
最近、福祉の世界では、「リカバリー」という言葉がよく使われます。とりわけ、「パーソナルリカバリー」という言葉を使うことも多いですが、いずれにしても、ここでいうリカバリーは、単に日本語に直訳した「回復」とは意味が異なります。 私なりに意味解釈すれば、「(パーソナル)リカバリー」とは「人生の新たな意味付け」となります。 発達障害や精神疾患によって目指そうと思っていた方向性に変更が生じるのは、誰にでもあり得ること。障害などによって何かを失ったり、生き方の方向転換を余儀なくされたりするかもしれないわけです。 しかし、失ったり方向転換したからこそ、今まで気づかなかったことに目を向けられるようになった……そういうことも人には起こるのです。 たとえば、競争社会で生きづらさを感じながら、それでも社会で生き抜くために、必死になって、常に100メートル先を見据えるような感覚で暮らしていた男性を、私は知っています。ところが、無理がたたって彼は精神疾患を発症しました。 それから1ヵ月後、「先」ばかり見据えてきた彼は、ふと足元に目を向けました。そこにはなんと、きれいな草花が可憐に咲いていたのでした。彼は草花に目を奪われたそうです。そして、草花を見ながら、自身の人生を振り返ることによって、「一度きりの人生を自分らしく歩んでみようと思えるようになった」と私に語ってくれました。 されど、なのです。現実問題として、お金のことを避けては通れません。経済的支援があれば、自分の状況に応じた暮らし方、未来の創造がしやすくなります。そのようなことから、読者のみなさんには、ぜひ、経済的支援に関心を持っていただきたいと思っています。 私は、「暮らしの応援団」という言葉をよく使います。 ある日突然、疾患や障害を有することになったら、戸惑うのは当たり前。そのようなときは孤軍奮闘するのではなく、大いに社会を頼り、活用してください。普段は気づかないだけで、あなたのまわりには支援してくれる人や制度がたくさんあります。それが暮らしの応援団です。 国の制度もあれば、自治体の制度、民間企業のサービスもありますが、これらの暮らしの応援団の活用を通して、誰もが自身の人生の主人公として、自分及び周囲を愛おしむことができることを、切に願っております。 私は、そんなことを感じられる社会で暮らしたい……。 後編記事〈【受給を考えている人は必見】障害年金「受給に必要な3つの要件」を専門家が超わかりやすく解説!〉へ続く。
青木 聖久(日本福祉大学教授、精神保健福祉士)