老いと向き合った「還暦じたく」エッセイに綴る電子レンジ料理の必要性と亡き母への想い|料理家・山脇りこさん
12月に最新エッセイを出版した料理研究家の山脇りこさん。50代半ばから“老い”を実感することが増え、還暦を迎えるための準備が必要だと思い立つ。心身の老いとの向き合い方、そして老いの先生でもあった最愛の母の死についても語られている。その一部をピックアップしてご紹介する。 【画像】山脇りこさんが母と過ごした長崎の風景、電子レンジで作る「カレー」料理写真
人気料理家、最新エッセイで伝えたいこと
「母は私の還暦を待たずに旅立ちました」 料理家・山脇りこさんが手がけた最新エッセイ『ころんで、笑って、還暦じたく』には、50代半ばを過ぎて感じた「老い」、そして88才で旅立った母への想いが綴られている。 本書は「60代を人生のご褒美にするための準備のおぼえ書き」だというが、その準備を後押ししてくれたのは、長崎で暮らしてきた母の存在だ。
「魂売った?」電子レンジ料理、きっかけは母
山脇りこさんの料理は、素材のおいしさを丁寧に引き出すレシピが人気で、電子レンジを使う印象はなかった。数年前の撮影現場で、「80代の母はまだ元気なのだけど、電子レンジ調理を教えてあげたい」と語っていた。 「料理が得意だった母が80歳になった頃、料理が元気のバロメーターだったのよ、私の。でも、もうできなくなったと目に涙をいっぱいにためて言いました(中略)。 私は、帰省すると煮物やカレーなどの温めるだけの料理を作りおいて帰るようになりました。母はこれらを鍋に移して温めていて、「レンジすればいいのに~」と言ってはみたものの、もう新しいことはやりたがらなかった。母を見て、私も同じだ、と思い至りました」 お母さまのことがきっかけとなり、鍋やフライパンと同じ加熱調理器具として、電子レンジと格闘する日々が始まった。雑誌の連載を開始し、『50歳からの大人のレンジ料理』(NHK出版)を出版するまでに。 「事情を知らない編集者さんから『魂売ったの?』と言われました。レンジ料理についてまわる、ラク、時短、手抜き、というキーワードをどちらかといえば避けてきた私への愛の突っ込みだったと思います」 電子レンジ調理は、決して手抜きではなく「料理の幅が広がり、自分自身の手で作る料理が延命できるな、と思えた」という還暦じたくのひとつ。 「今はまだ鉄のフライパンを振れても、70代、80代と、これまでできていたことができなくなるかもしれない」とも。 老いて料理がしんどくなったときに備えて、電子レンジを調理に使う方法を覚えておく必要性をしみじみと感じさせられる。そんなレンジ料理の中でもおすすめなのが、「旬の野菜を使ったノンオイルですっきりしたレンジカレー」だ。本エッセイではレシピは公開されていないのだが、特別に教えてもらった。 ささみとなすとトマトのカレー <材料>(2人分)鶏ささみ…3本なす…2本ミニトマト…10個カレー粉…大さじ1コショウ…小さじ1/3しょうゆ…小さじ2塩…小さじ1/2牛乳…大さじ3 <作り方>【1】さみは1cm幅で斜めに削ぎ切りする。【2】1のささみにしょうゆをもみ込む。【3】トマトは半分に切り、なすは7mm幅の薄切りする。すべて耐熱ボウルに入れ、塩とカレー粉、コショウをふり、全体にからめる。【4】3の上に2を広げてのせ、牛乳を回しかけてからふわっとラップをかけ、電子レンジ(600w)で6分加熱し、そのまま30秒おく。肉をほぐしながら、全体をよく混ぜる。【5】ごはんとともに皿に盛る。