老いと向き合った「還暦じたく」エッセイに綴る電子レンジ料理の必要性と亡き母への想い|料理家・山脇りこさん
母は「老い」の先生
本書にたびたび登場するのは、「老い」の先生ともいえる母の存在だ。おしゃれが好きで料理も得意だったという素敵なお母さまの気配が随所に感じられる。 「よそ行きはほとんど母の手作りでした。彼女はひらひらしたレースやフリルはきらいで、濃紺やボルドー色のビロードに、真っ白なコットンの襟とか、白に白で刺繍したブラウスとか。そうやって子どものときから着せられていた母好みは、今の自分のセンスを作っています。でもそのことを母に伝えたことはありません。 料理は、プロはだしでした。自分が料理の仕事をするようになって、かなわないな、とあらためて思ったこともたくさんなります(中略)。母より上手にできたことは一度もなかった。だから料理家として活動するにあたって、母の名をもらいました。そのことも母にちゃんと伝えたことがありません」 エッセイの終盤では、自分の還暦を待たずに逝ってしまった母、その死の瞬間から現在に至るまで、強く思い続けている後悔の言葉が紡がれる。愛する親を看取り、送ることを経験した著者の正直な思いは胸に迫るものがある。 本書には、母から学んだ老いを受け止めながら、還暦後の人生をご褒美にするための実用的なノウハウが詰まっている。同時に、18才から上京し、離れて暮らしてきた母への手紙のようでもある。 「大切な人をいちばん大切にする」。できそうでできていない、身近な人との関係を見つめ直すきっかけにもなる、心がほぐれるエッセイだ。 書名:ころんで、笑って、還暦じたく著者:山脇りこ定価:1540円発行:ぴあ 構成・文/介護ポストセブン編集部