「アブソリュート・チェアーズ」(埼玉県立近代美術館)レポート。ウォーホルやベーコン、名和晃平らの作品を通じて「椅子の絶対的魅力」に迫る
国内外28組による83点を展示
アートにおける「椅子」の表現に着目した展覧会「アブソリュート・チェアーズ」が2月17日、埼玉県立近代美術館で開幕した。会期は5月12日まで。その後、愛知県美術館に巡回する(会期:7月18日~9月23日)。 1982年の開館当初から優れたデザインの椅子を収集し、常時数種類を館内に設置している埼玉県立近代美術館。「椅子の美術館」としても親しまれる同館が、満を持して愛知県美術館と共同企画したのが本展だ。プレス内覧会で建畠晢・埼玉県立近代美術館館長は、「様々なアーティストを魅了してきた椅子の絶対的(アブソリュート)な魅力について考察した」と話した。 展覧会は、戦後から現代までの国内外の28組のアーティストによる83点を紹介。作品の手法は立体、映像、インスタレーションと様々だ。企画グループメンバーの佐伯綾希・同館学芸員は本展についてこう説明する。 「従来のデザイン展と視点を変え、アートの視点から椅子という存在に迫った。生活のあらゆる場面で用いられている椅子は人間や社会と密接な関わりを持ち、その中で幅広い意味を纏っている。美術家は各々、椅子の持つ意味をとらえて作品に反映してきた。美術作品における椅子の在り方の中に私たちの社会や文化を見つめ直す手がかりが詰まっているのではないか」
海外作家が滞在制作した新作
館内に入るとまず目につくのは、副産物産店が作品輸送用のクレートや木製パレットを再利用して作ったベンチ。副産物産店は山田毅と谷津吉隆による資源循環プロジェクトで、アーティストのスタジオから出る廃材を使い、加工・編集して作品を制作する。会場でも本展のために2人が作り上げたユニークな椅子があちこちに置かれ、来場者は自由に腰かけることができる。 センターホールの吹き抜けには、トゲだらけの奇妙な球形が宙に浮かんでいる。カナダ出身のミシェル・ドゥ・ブロワンが、約40脚の会議用椅子を使い滞在制作した新作《樹状細胞》。1970年生まれのドゥ・ブロワンは、既製品を用いて産業・経済システムや様々な力学を可視化する彫刻・映像作品やインスタレーションを手がけ、日本での展示は今回が初めて。 内覧会に出席したドゥ・ブロワンは、本作は2005年に発表した作品を発展させ、人体の表面を覆う免疫細胞の一種からインスピレーションを得たと説明。「コミュニティの象徴である椅子が等間隔に並び、外部に対し閉じた球体の形状は、人間の集団が取る防御的姿勢や集団免疫を想起させるかもしれない」と話した。