「アブソリュート・チェアーズ」(埼玉県立近代美術館)レポート。ウォーホルやベーコン、名和晃平らの作品を通じて「椅子の絶対的魅力」に迫る
「排除アート」をモチーフに
第5章「関係をつくる椅子」は、椅子が結ぶ関係性に焦点を当てる。チェスセットがある机を挟み2脚が向き合うオノ・ヨーコの作品は、駒や盤も真っ白に塗られている。対戦する際は、相手を信頼しお互いの記憶をたどってプレイする必要があり、作家のユートピア的な理想がうかがえる。 本展のために制作された檜皮一彦の映像作品は、車椅子ユーザーがいる状況での避難訓練のプロセスを記録した。道路の段差など困難がある車椅子の移動を通じ、参加者がコミュニケーションを深めていく様子が伝わる。檜皮は「災害避難所に指定されている美術館は多いが、館内は規制が多く、実際に避難するときの制度的な問題も感じた」と話した。 友好関係に役立つ椅子だが、一定の人間を排除するかたちに作られることもある。たとえば、公共のベンチに仕切りを設け、横たわれないようにした「排除アート」。シンガポールを拠点に活動するダイアナ・ラヒムは、そうした排他的な構造物を調査し、親密感を演出する装飾を加える活動を行う。タイ出身のスッティー・クッナーウィチャーヤノンのインスタレーションは、母国の通俗的なイメージを覆すようなモチーフが椅子に刻まれている。 アート作品を通じ、日常的な椅子に含まれる含意を読み解く楽しみを与えてくれる本展。多様な文化や社会背景も伝える展示は、ほとんどが日本にある作品で構成され、国内コレクションを活用した好企画と言える。なお、館内には実際に座れる名作椅子が複数あるので、そのデザインの妙や快適さも味わいたい。
永田晶子