『ゆびさきと恋々』説得力ある手話シーンには専門の作画担当と監修がいた。アニメ監督に訊く、作品をモット楽しめる“こだわり”の数々
各エピソードで気になるポイントを直撃、構図レベルでのこだわりも
ここからは、各エピソードにスポットを当ててお伺いします。以降、ネタバレを含む質問や言及がございます。未視聴の方はご注意ください。 ――第1話では雪と逸臣が出逢うシーンが描かれました。主人公が聴覚障がいという設定の本作をアニメに落とし込む際、「雪ナレ(雪の心情ナレーション)」において注力した点はありますか? 雪は音を聴いたことが無いので、言葉の正しい発音はわかりません。ただ、だからといって雪のモノローグやナレーションにたどたどしさを持たせるのは止めよう、それは必要最低限にしようと雪役の諸星さんとは話しをしました。雪は実際に発音しているわけではなくて、あれは感情や思考を表現しているものですから。他人を愛しいと思う感情に聴者もろう者も関係ないので、そこに勝手に境界線を作るのはリアリティでもなんでもないんですよね。その視点は常に失わない様にのぞみました。 ――第2話をはじめ、本作はアニオリ(アニメオリジナル)描写も複数うかがえます。原作の良さを損なうことなく、アニメ化ならではの魅力を引き立たせたのにはどのような背景があったのでしょうか。 アニメの構成案を練る段階ではある程度その後の展開も把握できていますから、原作で迎えるその後の人間関係により説得力を持たせられるポイントにしぼってオリジナルエピソードを加えていきました。アニメという表現で追加される価値のあるものにしたかったので、色彩などに特徴のあるシーンが多いですね。 2話で言うと、ろう学校での描写がアニオリですが、雪の見つめるステンドグラスの光の透過率を撮影監督と一緒に試行錯誤しました。あのステンドグラスは雪の現状と行く末を示唆する構図になっているので、最後まで大事に仕上げました。 ――第3話や第4話ではより、逸臣の魅力が引き立つように思えました。優しさ、好奇心など、多数の魅力があるかと思いますが、監督自身の逸臣の印象を教えて下さい。 逸臣は女性の感じるあらゆる「カッコいい」が詰め込まれたキャラクターですよね。だけどそれが鼻につくこともなく、人間的に魅力がある性格なので男の自分から見ても素直に好きになれる人物です。これは一寸逆説的なのですが…今回原作者先生も脚本家もキャラクターデザインの方も女性じゃないですか。 「素敵な男性にはこうあって欲しい!」という女性の視点はあらゆる角度から込められているので、逆に僕は「あまりそこは気にしないで好きにやる」という男性視点を逸臣に込められるように努めています。逸臣の自然体でフラットな部分と、キュンとくる仕草がちゃんと両立できていると感じてもらえたら嬉しいですね。