『ゆびさきと恋々』説得力ある手話シーンには専門の作画担当と監修がいた。アニメ監督に訊く、作品をモット楽しめる“こだわり”の数々
新たな楽しみ方も芽生える、手話へのこだわり
本作は手話という、他作品ではあまり見られないコミュニケーションが特徴的です。 ――原作は繊細で忠実な手話表現に定評がありますが、本作をアニメ化は難しいものだったのでしょうか。 制作期間に厳しい縛りのあるTVアニメで手話をアニメートするのは本当に大変でした…まずそもそも手話を描ける人が少ないので。手話作画担当という役職を設けまして、複雑な作画が要求される手話はその役職を務める3人のアニメーターさんで全て描いています。 ――ここは特に力を入れた、といったポイントはありますか? 力を入れたポイントは「手話は言語である」ということによる表現ですね。教科書的なポーズにおさめるのではなく、感情によって指先が力んだり、脱力したりといった描写を加えることで、より自然な手話会話に見えるよう心掛けています。 ――丁寧な手話表現が本作の魅力の一つだと思うのですが、手話シーンの作画を行うプロセスを教えて下さい。 シリーズ構成の米内山陽子さんに手話監修もお願いしていまして、まずシナリオ段階から作画的に実現可能な手話の選別を行ってもらいます。その後米内山さんに実演していただいた手話を映像におさめまして、その映像を参考に作画を行います。 まだ着色もしていないラフスケッチを仮映像にした段階で一度、着色したアニメ映像の段階でさらにもう一度チェックをしていただいて、問題がなければ完成です。その際に出た微調整などを各話の演出担当さんにお願いしてもバラつきが出てしまうので、基本的に手話カットのタイミングは全て自分の方でコントロールしています。 ――アフレコにも手話監修の担当者さんもいるとお聞きしました。監修という側面での、本作のこだわりはありますか? 手話を作画に起こす際、つい手の動きだけに拘ればいいと思いがちですが、全然そんなことはなくて。表情や口の動きもそれに連動してこなければ自然に見えないんですよね。また、その際に唇が動くことで鳴るリップ音や息の演技にもリアリティをこめていこうということで、アフレコ時には声優さんにそういった芝居もお願いしています。そこに対するディレクションは正直自分にはわからない部分なので、手話監修の米内山さんにお任せしています。おかげでかなり説得力のある手話シーンになっていると思いますよ。