ウイリアムズがサインツJr.争奪戦に勝利した背景。実情はアルピーヌとの“一騎討ち”……アウディは最終候補から外れていた?
土壇場で“参戦”したアルピーヌは魅力的なオファーを提示
アルピーヌは、今季限りでエステバン・オコンとの契約を解除することになり、シートが1席空いている状態。SNSではオコンが一方的に解雇されたように言われているが、両者は相互に不満を溜めていたと見られる。オコンはチームがドライバーの意見に耳を傾けないことに憤慨していたし、チームはオコンとピエール・ガスリーの確執に辟易していた。そんな折に加入したのが、ベネトン/ルノー時代にチームを率いた重鎮フラビオ・ブリアトーレだった。 ブリアトーレはアルピーヌの状況を一変させようとした。彼はドライバー市場でベストな存在であるサインツJr.をなぜオコンと交代させないか疑問に思っており、サインツJr.に対して魅力的なプランを提示した。それは性能が劣っているとされるルノー製パワーユニットを放棄し、メルセデスのカスタマーPUを使用するという方針だった。 サインツJr.としても、この魅力的な誘いを前にウイリアムズとの交渉を中断せざるを得なかった。これも彼の決断が遅れた一因であり、ボウルズの眉間にも冷や汗が流れ落ちたことだろう。 他にも、やや状況が複雑になっていた箇所がある。レッドブルはペレスとの契約を延長したものの、彼のパフォーマンスは下降線を辿っており、去就に関する噂が再燃。メルセデスも、アントネッリがF2でなかなか勝てず、F1昇格への準備が整っていないと自他共に認める状態だった。 そのためボウルズは、別のドライバーと交渉を始める必要があった。ザウバーのバルテリ・ボッタスはサインツJr.獲得に失敗した場合の第一候補だった。また、オコンも選択肢にあったようだ(オコンは最終的にハースと契約)。 サインツJr.の最終的な決断は、ウイリアムズかアルピーヌかという2択に絞られた。一貫したビジョンと安定性を備えているウイリアムズと、ルノーがチーム売却を決断しないよう、準メーカー的立場にシフトしようとしているアルピーヌ……。ブリアトーレの存在はアルピーヌにとって強みになる可能性があったが、彼はこの短時間で十分な影響力を発揮することができなかったと言える。 そしてサインツJr.はウイリアムズ加入を決めた。契約年数は2年+オプション付き。トップチームのシートを確保できる際は契約を解除できる条項が含まれているのではという話もあったが、ボウルズはこれを否定している。 ではなぜ、ウイリアムズだったのか? ボウルズはサインツJr.獲得を確信していたスパで、サインツJr.から言われたことの中で最も印象的だったコメントとして、次のような言葉を挙げた。 「僕が決断をする上でこういう姿勢なのは、100%全身全霊で打ち込みたいからだ。そうするためには一切の疑念を持っちゃいけないんだ」 ウイリアムズでのプロジェクトは、サインツJr.にとってある種のロマンスを感じるものかもしれない。1997年以来タイトルから遠ざかり、一時はロータスやブラバムと同様にチーム消滅の危機もあった名門チームを復活させる機会がサインツJr.に与えられたのだ。 そしてアレクサンダー・アルボンとの強力なラインアップが形成されたことも、チームにとっては大きいだろう。ニコラス・ラティフィやローガン・サージェントはアルボンに匹敵するパフォーマンスを見せられなかったが、サインツJr.の加入がアルボンにとって刺激となる可能性は十分ある。 これで、来季のシートで空きとなっているのはメルセデス、RB、アルピーヌ、ザウバーの1席ずつとなった。レッドブルもとりあえず、ペレスをチームに残留させる流れのようだ。F1は約1ヵ月のサマーブレイクに入ったが、残りのシートもあっさりと決まってしまうのだろうか。
Jake Boxall-Legge