【#佐藤優のシン世界地図探索86】トランプ革命① 米大統領選挙で"アメリカ王"となったトランプ
佐藤 今年、トランプは聖書を作りました。元になったのはピルグリム・ファーザーズ(※)が、アメリカで広めた欽定訳聖書(1611年刊)です。それに米国独立宣言と米国憲法修正条項、国旗の前での宣誓文を入れて、こうした価値観であることを表明しました。ところが、ハリス支持者のエリートたちは「宗教ゼロ」の人たちなので、その聖書が単なる金儲けの道具としか見えていません。 トランプの暗殺未遂事件で、右耳に銃弾がかすった時も同じです。トランプが手を上げて「戦え!」と叫びましたが、「あいつはプロレスをやっていたから、その反射神経なんだよ」としか見ていない。 ハリスの支持者たちには「神に選ばれる」、そういった感覚が無いんです。あくまで「こんなのがあったらロクなことにならない」と考えるだけです。そこにあるのは自分たちの利権構造だけですからね。 ――米大統領選挙では、いまの欧州にあるふたつの価値観による壮絶な戦いが繰り広げられた、ということですね。 佐藤 トランプは「私は低学歴の人たちが好きだ。そういう人たちが額に汗して働いている。その成果で米国が成り立っている」と公言しています。右から左に金を動かすだけで大金を稼ぐことをトランプは評価しません。 そのトランプの価値観には、ゾンビ化した宗教が残っています。そして、米国はやっぱり宗教国家です。だからトランプは、ゾンビ化してもその宗教を持っているアメリカ人の深層心理を刺激しました。 それに対して、ハリス陣営やハリスを支持しているのは、宗教も何も信じず、ニヒリズムで金と論理だけに生きている「エリートの米国」です。トランプとは相対する価値観ですよね。 伝統的なキリスト教の諸教派の人、中産階級の人たちは民主党をこれまで支持してきました。しかし、やはり手術と薬で性別が変えられるのは行き過ぎだとなって、トランプの支持に回ったわけです。 ――なるほど。 佐藤 ただし、今回の選挙でトランプが大統領に当選したという見方をするのは、間違いです。 ――何が間違えているんですか? 選挙で勝ち、当選したじゃないですか? 佐藤 違います。トランプは選挙によって当選した「王」です。 ――王様! しかし、トランプは民主主義の根幹である選挙で選ばれましたよ? 佐藤 米国史の原点に帰った場合、実はあまりおかしくない話なんです。米国で大統領制度を導入する際、国内には「王にした方が良いんじゃないか」という意見がありました。 当時は初代大統領のワシントンが当選するのは自明だったので、「神聖ローマ帝国の選帝侯のような形で、ワシントン王にしたほうがいいんじゃないか」となっていたのです。しかし、やはり大統領の方が民主的だろうという考えで、大統領制度になりました。 ――それで今回は「トランプ王」。その王は何から手を付けるんですか? 佐藤 まずは、司法権を超えることからですね。 「トランプ革命② 司法権を越えるトランプ王」へ続く。次回の配信は2024年12月6日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生