【#佐藤優のシン世界地図探索86】トランプ革命① 米大統領選挙で"アメリカ王"となったトランプ
佐藤 と、世界での定説となっています。 しかし、トッドはその政治経済、教育だけでは現在の情勢、トランプ現象やトランプ革命、そして、ウクライナ戦争が読めないと説明しています。 ――トランプ革命で平等が普遍でなくなり、ウクライナ戦争はもうすぐ終わりそうですが......。今後、さらに何か必要になってくるんですか? 佐藤 政治経済、教育に加えて、宗教を入れないとなりません。宗教は教育より長く影響を与えます。その賞味期限は家族制度の約半分、2500年程度です。 ――そりゃまた長期間ですね。 佐藤 具体的に言うと、ユダヤ教が2800年、キリスト教が2000年、イスラム教が1400年、この世界に誕生してそれだけの月日がたっています。 ――すると、キリスト教は賞味期限が切れています! 佐藤 さらに、ガリレオとコペルニクスの地動説、そしてマゼラン世界周航による地球球体説の実証もありました。 ――地球が宇宙の中心でなく、さらに丸い球体だとわかってしまった。キリスト教の世界観が崩れました。 佐藤 だから、上にいる神が維持できないわけです。例えば日本から見て、ブラジルは下に位置します。そういうところに神様がいると、神様を全能だと思わなくなってしまいます。だから人々は19世紀以降、教会にだんだん行かなくなりました。 ただし、不倫はいけないとか、弱い人をいじめてはいけないとか、それから人間の生命は有限だから自分の使命を果たさないといけないとか、こういった価値観はいまだに残っています。 ――確かに残っています。
佐藤 これをトッドは「ゾンビ・カトリシズム」「ゾンビ・プロテスタンティズム」、つまり「宗教のゾンビ化」と言っています。もはや自分たちは宗教を信じているとは思っていないものの、価値観では宗教的なモノがあるという状態です。日本だと、七五三やお宮参りなんかが当てはまりますよね。 ――神道ですね。 佐藤 そうです。しかし、ヨーロッパにおいては21世紀に入ってから、そうした価値観も急速に崩れて、「宗教ゼロ」の状態になりました。 ――その結果どうなったんですか? 佐藤 愛や信頼などはまったく信用できなくなり、金が全てを解決するようになりました。すると、金を持っている人間が偉い、となります。 それから、個体が全てだということになって、死んだらそれで終わりという考えが主流になっています。 ――誠に刹那的であります。 佐藤 その結果、歴史への関心がなくなりました。これがいまの西洋です。だから、こういう西洋はもう先がないので敗北するということです。 ――それが、トッドさんの新作『西洋の敗北』。なんか、自滅のような気もしますが......。 佐藤 西洋以外のロシアの場合、高等教育を受けている中で、エンジニアの割合は25%です。米国は8%なので、比較的多いということになります。つまり、ロシアにおいてはモノを作るということを生き甲斐に感じる人は、まだ評価されている。ロシア正教もゾンビ化していますが、キリスト教的な価値観はまだ生きています。 特に問題なのが、LGBTQですね。男と女は違います。手術して投薬すれば、男が女に、女が男になることは可能だとしていますが、それは嘘だとトッドは言っています。 しかし、その嘘がタブー化されてしまっている欧米では、あらゆるところで嘘が「真」のように捉えられるようになっています。こうした状況は「宗教ゼロ」の現状が如実に現れている証です。では、これらをトランプの選挙に当てはめてみましょう。 ――どうはまるんですか? 佐藤 トランプはゾンビ化したプロテスタンティズムを本当に宗教として信じています。だから彼には、「神に選ばれて米国大統領になった」感覚があるんです。「自分の使命を果たすのが神の摂理だ」と言っていますよね。 ――はい、確かに言っています。