【#佐藤優のシン世界地図探索86】トランプ革命① 米大統領選挙で"アメリカ王"となったトランプ
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――トランプが米大統領選挙で勝ち、返り咲きました! 佐藤 「トランプ革命」ですね。 ――革命! 民主的選挙でありましたが......。 佐藤 選挙による革命です。トランプの返り咲きによって、新しい革命のプロセスが始まったという意味です。 ――本当ですか? 佐藤 今回の大統領選では、ハリス旋風がありましたね。 ――はい、一大ブーム。誰もが史上初の女性の米大統領の誕生を予想していました。 佐藤 あれは虚構です。要するに、作られた旋風だったということです。 ――な、なんと!! 佐藤 実はトランプの当選は今年の7月に決定していました。 ――投票も開票も始まってないですよ。誰が決めたんですか? 佐藤 神様が決めました。 ――7月13日、トランプは演説中に狙撃されました。数ミリでもその弾道が逸れていたら、トランプは射殺されていた......。神様がその瞬間、米大統領と決めた? 佐藤 そうです。神様がトランプを大統領に決めたので、米国のエスタブリッュメントたちはビビりあがっていました。 ――米国のエリートたちは、ちゃんと神を畏(おそ)れるのですね。 佐藤 しかし彼らは、「神様は決めた事を覆すことができる!」という慢心に陥ったのです。 ――罰当たりめ!!
佐藤 人口学者のエマニュエル・トッドが『西洋の敗北』という本を書いています。結構難しい本ですが、簡単に説明します。 ――お願いします。 佐藤 まず、何事にも賞味期限があります。政治経済は50年、教育は500年です。 ――教育は5世紀、食べられる......。 佐藤 そうです。いまの教育には基本的に、中世ヨーロッパの大学制度が残っています。 ――確かに。 佐藤 しかし、日本の場合は寺子屋がいい例ですが、儒教的な感覚です。先輩を貴(たっと)ぶとか、そうした文化はずっと残っています。 そして、家族制度の賞味期限は5000年です。 ――日本だと縄文時代からとなります。 佐藤 ただ、平等という概念が現代では普遍的な概念となっていますよね。 ――はい。そりゃもちろんです。 佐藤 しかし、トッドに言わせると違います。平等というのは、ヨーロッパにおいてはフランスのパリ盆地とコートダジュール地方にしかない概念だ、と言うのです。 そのふたつの地域では、男女関係なく子供たちに平等に財産を相続していました。だから、財産がどんどんと細分化していったのです。しかし、フランス革命がたまたまパリで起こったことで、それが普遍的な現象となりました。 ――なんと迷惑な革命! 佐藤 だから、日本とドイツでは家族制度とその平等が軋轢(あつれき)を起こしているんです。 日独は長子相続で父親に大きな権限があります。だから、兄弟は不平等です。しかし、弟妹が苦しい状況になれば、長子、つまり長男が彼らを助けます。そして、親の扶養をするのも長男の責務です。すると、逆に家庭内で再分配が出来ることになります。 また、英国では16~17歳になると、子供を家から出します。子供が困窮しても親は助けません。すると、社会福祉制度が整うという見方なのです。 ――そもそも各国で違うのに、フランス革命が平等を世界標準としてしまった。