「一万部見込める名前にする」人気ゲーム脚本家・緒乃ワサビ、商業出版実現までの≪完全戦略≫
すべてはエゴサから始まった
――今回、小説家としてはデビュー作となるわけですが、そもそもどういうきっかけでこの本が出ることになったのでしょうか。 普段は、Laplacianという会社で、ビジュアルノベルと呼ばれるゲームを作っています。物語を読むだけの、システムとしてはシンプルなゲームで、『白昼夢の青写真』という作品が最新作です。自分たちの代表作であり集大成ですから、ユーザーさんの反応は気になって、よくエゴサをしていました。 そこで、担当編集のAさんがSNSに『白昼夢』の感想を投稿してくれているのを発見して、リプライしたのが最初のきっかけですね。小説家になりたいとはずっと思っていて、去年も新人賞に応募しようとしていたくらいなので、「この機を逃す手はない」と。 初めて会ったときに、「本を書きたいので担当になって下さい」と言った覚えがあります。 ――あれは、面食らいました。ゲーム好きなので、そっち方面の方にお会いする機会もあったのですが、みなさん、ゲームのシナリオで忙しいし、気持ちはあっても、なかなか具体的な仕事までいくことはなくて。 肉食系のマッチングアプリユーザーみたいな、逃がすもんかって気持ちでした。ゲームを作る仕事にもチーム制作の楽しさがありますが、活字だけで表現する小説って、やっぱり一番テキスト素材の純度が高いので憧れがありました。 そもそも、商業出版させてもらうための戦略を自分の中で組み立ててから、このLaplacianというメーカーでシナリオを書き始めたというところもあるんですよ。 ――それは、どんな戦略だったんですか? 物凄くざっくり言うと、書き手としての自分が、出版社から「一万部は見込める名前」として認識されれば、どこでも書かせてもらえるんじゃないか、って。 ――めちゃくちゃ具体的ですね。そして、現状をよく分かってらっしゃる。 ライトノベルの初版部数とかは聞いていたので、そこからなんとなくイメージして。ビジュアルノベルというジャンルを選んだのも、今のエンタメ業界では単価が高い媒体で、誰が作っているかをユーザーさんが凄く意識しているだろうと思ったからです。実際、ライター買いの文化が、ユーザーさんに根強く残っている。名前を覚えて貰うならここしかないだろう、と目論んでシナリオを書き始めました。 実際、最初に掲げた一万部という目標の数字を、今のLaplacianは持っていると思うし、外からもそう見て貰えているとは思うのですが、でもそれが作品単体のファンではなく、Laplacianというブランドに付いてくれているファンなのか、というのがまずあって。さらに、Laplacianのファンだとしても、緒乃ワサビの作る他の作品にも興味を持ってくれるか、という二段階のハードルがあるんですよ。そこは心配ではあったのですが、発売告知や試し読みに対するユーザーさんの反応は期待以上でした。あんなに好意的に受け止めてくれるとは、思ってなかったんで。