オードリー・タンは生活にも「/」を入れる...「スラッシュワーカー」になる方法、超える方法
いま世界中で複数の肩書きを持つ「スラッシュワーカー」が増えている。若き天才オードリー・タンは提案する。「職業だけでなく生活にもスラッシュを」
世界的に、複数の肩書きを持つ「スラッシュワーカー」が増えている。 若き天才と呼ばれ、長いキャリアを持つオードリー・タン(唐鳳)も、もちろんその1人――のように思えるが、実は少し違う。オードリーはむしろ「単槓(ダンガン)」だ。 【写真を見る】山で凍死した台湾のビキニ・ハイカー 「スラッシュワーカー」なのか「単槓」なのかはともかく、これからの時代に向けたオードリーの提案はこうだ。 「職業だけでなく生活にもスラッシュを入れよう」 本業以外の時間を作ることのメリットやその取り組み方について、最新作『オードリー・タン 私はこう思考する』より、一部を抜粋・再編集して紹介する。(本記事は第3回)。 ※第1回:オードリー・タンが語る「独学と孤独」 答案を白紙で提出し、14歳で学校を辞めた天才の思考 ※第2回:世界の若者を苦しめる「完璧主義後遺症」...オードリー・タンは「ジグソーパズル」にたどり着いた ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
世界的に増えている「スラッシュワーカー」
2007年、『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニスト、マーシー・アルボハーの著書『One Person/Multiple Careers : The Original Guide to the Slash Career』(未邦訳)が出版された。 漫画家・ドキュメンタリー監督・経営コンサルタントなど、複数の職業を持つ数百名を取材したものだ。 彼らは一つの職業では満足できず、いくつもの職業を掛け持ちしている。自己紹介をするとき、複数の肩書きや身分、収入源があると示すために、職業をスラッシュで区切って並べることから、「スラッシュワーカー」と呼ばれる。 この言葉は当初、ベンチャー業界や若者の間で流行したのち世界的に広まっていった。よりよい働き方や生き方を模索する多くの若者だけでなく、ベテランの労働者にも影響を与えた。長年、生活を犠牲にして必死で働いてきた彼らが、自分のやりたかったことを思い出し、生活の充実を求めて副業を始めるようになった。 普通の人からすれば、オードリーこそ「スラッシュ族」(中国語で斜槓(シエガン)族)の代表に見えるだろう。 14歳で学校を中退したのち、独学をしながら仕事を始め、一般的な人よりおよそ10年も長いキャリアを持っている。豊富な業務経験からいくつもの肩書きがある。元デジタル担当大臣であり、市民ハッカー。右手でプログラムを書き、左手で詩を書く。世界の七つのNGOにも参加している。 オードリーの名刺に所属する組織を書こうとすれば、肩書きが七つも八つも並ぶことになる。 彼女は14歳のときから、「ネット上では、人はなぜすぐに相手を信頼したり憎んだりするのか」というテーマに深い興味を抱き、研究を続けてきた。しかし、このテーマはあまりに大きく、また参考にできる研究もなかった。そこで、自分でプログラムを書いていくつものコミュニティを立ち上げ、そのなかで人々がどう関わり合うかを観察したり、別の人が作ったコミュニティに参加したりするようになった。多くの国際NGOに参加する理由がそれだ。