宮崎駿が空に憧れた原点
“アニメ界の巨匠”として数々の名作を手掛けてきた映画監督の宮崎駿氏(72)が9月6日、長編映画製作からの引退を発表した。 現在、公開中の引退作「風立ちぬ」(東宝)では、旧日本軍の戦闘機「零戦」を設計した堀越二郎の半生を主軸に、戦争を生き抜いた人たちの姿などを描いている。 宮崎作品は、卓越したストーリーや魅力的なキャラクター、壮大な世界観で多くのファンを魅了してきたが、劇中には一貫して“空を舞う”シーンが盛り込まれているのが、つとに有名だ。 映画初監督作品となった「ルパン三世 カリオストロの城」(79年)では、「オートジャイロ」と呼ばれる飛行メカを用いて主人公のルパンを飛翔させ、「風の谷のナウシカ」(84年)ではナウシカが一人乗り飛行機の「メーヴェ」を空中で操る場面が描かれている。 飛行士を主人公にした「紅の豚」(92年)は言うに及ばず、「天空の城ラピュタ」(86年)や「となりのトトロ」(88年)、「魔女の宅急便」(89年)、「千と千尋の神隠し」(01年)、「ハウルの動く城」(04年)でも、登場人物たちの背景には空が広がっている。初監督を務めたアニメ「未来少年コナン」にも、数多くの空飛ぶメカが登場した。 宮崎氏は、「作品世界の空間の広がりを意識させるため」といった趣旨の発言を残しているが、そこには“演出”以上の強いこだわりが感じられる。 そのヒントとなるのが、若き日の宮崎氏が共感したあるフランスの作家の存在だ。 サン=テグジュペリといえば、児童文学の世界的な名著「星の王子さま」の作者として広く知られているが、作家になる前には航空郵便の飛行士をしていたという経歴を持つ。 飛行士時代の経験を反映させた「夜間飛行」や「人間の土地」などの作品も残しているが、宮崎氏は20歳の頃にこの2つの作品に触れていたく感動し、98~99年にNHKのドキュメンタリー番組「世界・わが心の旅」に出演した際には当時の飛行機に乗り、サン=テグジュペリの軌跡をたどる旅を楽しんでいる。