92歳の谷川俊太郎がいま、思っている『生きてるってどういうこと?』の答え…黒柳徹子が絶賛した
読む人の心を触発することが大事
詩をつくるとき、谷川さんはどのようなシチュエーションから設定するのだろう。 谷川:絵から文字、ことばが出てくるのをよく感じます。詩をつくるとき、何かのストーリー性が出てくるけれど、それが第一に必要なのではなく、その詩が持つイメージが読む人の心を触発することが大事だと思っています。 絵よりももっと、ことばの場合は具体性があるんです。常にことばが持っている具体性を、抽象的なことばから引き出そうとして書いていますね。 ことばのなかにイメージとか想像力を働かせる力とか、いろいろなものがありますから、そうとう自由です。ことばというのは、目の前に見えている意味よりもっと深いところを指示してくれるから、その意味では書きやすい。 絵は限定してしまうことがあるから不自由な部分もあるでしょう。でも、絵も詩も、想像力を働かせるという点では似ていますよね。絵には見てくれた人に委ねるということがあるそうですが、文字の場合もそうなんです。 * ただ立っていること ふるさとの星の上に ただ歩くこと 陽をあびて ただ生きること 今日を ひとつのいのちであること 人とともに 鳥やけものとともに 草木とともに 星々とともに 息深く 息長く ただいのちであることの そのありがたさに へりくだる ただ生きる『詩の本』(集英社)より
今まで経験したことのない何かを感じたい
さまざまな活動に取り組まれてきた谷川さんは、これからどういった創作活動を考えているのか。今、どんなことを感じているのだろう。 谷川:これから何年やるかわかりませんが、今まで経験したことのない何かが感じられるといいなと思っています。もう90歳を越えていてほとんど時間はないわけだけど、だからこそ前からの経験ではなくて、90歳を越えたからこそ感じる新しい何かがあるだろう。 それを何かのかたちでことばにしたり、表現したいと思いますが、これもけっこう難しい。何かが自然に降りてくるとか、湧いてくるとか、やっぱり自然とのつながりは、年をとればとるほど強くなりますね。 * ときどき思う、 死んでからヒトは、 生きていたことが、 生きているだけで どんなに幸せだったか 悟るんじゃないかって。 『幸せについて』(ナナロク社)より * 『生きてるってどういうこと? 』のタイトルは、はじめは2案の候補があった。谷川さんに相談すると、こんな答えが返ってきた。 谷川:『生きてるってそういうこと』というと、その絵本を固定しちゃいそうです。「どういうこと?」となっていると、読者の心のなかで動くものがあって面白いですよね。疑問形の方が、題名としてはいいと思いますよ。 谷川さんのアイデアでつけられたタイトルは、読者が想像力を広げて楽しみ、そして読者も一緒に考えていく手がかりになることだろう。 (構成・文/高木 香織) ** 本記事の前編は<92歳の谷川俊太郎が、ここにきて思う「戦争」「絶望」「諦めた」こと…今や「何でもありだ」と思うようになっています(仮)>からどうぞ。
谷川 俊太郎(詩人)/宮内 ヨシオ(イラストレーター)/高木 香織(編集・文筆業)