「噛み癖が治らない」処分対象”コロナ犬”を引き出すと…保護活動家が流した涙の理由
コロナ禍の癒しに買われたペットのその後
「本来は人間が大好きな仔です。とはいえ、一度、ついた咬み癖を直すのは簡単なことではありません。大切なのはコミュニケーションをしっかり取り、なぜ、どのタイミングで咬むのかを分析することです。言葉の代わりに怖い、嫌だという主張を吠える、咬むであらわしているのですから。 元の飼い主が犬の性格や行動の意味を理解できれば、バビオが咬傷犬になることもなく、そしてバビオを手放すこともなかったのではないかなと思います」 バビオは俗にいうコロナ犬──新型コロナウイルス禍に購入された犬だ。コロナ禍で、在宅時間が増えたことで、生活に癒しを求めてペットを飼いはじめる人が増え、ペットビジネスは活況を呈した。コロナ禍で在宅時間が増える中、新規でペットを飼い始める人が増えた。 ペットフード協会によれば、2020年の新規の飼育頭数は犬が46.2万頭(前年比14%増)、猫が48.3万頭(同16%増)だったという。しかし、「思った以上に手がかかる」と、手に負えなくなり、保健所や支援団体に保護を求める飼い主 も少なくなかったという。 「飼い方がわからないままペットを飼い始め、持て余してしまう人は少なくありません。ペットは何も悪くありません」 咬傷犬になってしまうのは、多くの場合、不適切な飼い方が原因だと坂上さんは語る。 「激怒症候群などが原因の場合もありますが、多くは飼い方の問題だと思います。咬む理由はなんなのか、どうしたら咬まないかと、理由と原因を追求すれば、接し方もわかります。動物の行動を理解し、そして人間と動物が信頼関係を結ぶことができれば、多くの咬傷行為は落ち着くと私は考えています。
殺処分に連れてきた飼い主からの衝撃の申し送り
バビオは元の飼い主さんがペットショップで購入した仔で、狂犬病やワクチンも接種されていましたし、マイクロチップも入っていました。そして、先ほどもお話ししましたが、バビオは歯が削られていました。咬み癖のある犬の歯を削ったり、抜いたりすることは、時々あることですが、私は人間の都合で、健康な歯を削ることには反対です。どうしたら咬まなくなるかを考え、適切な対応をしていたら、そんなことをせずに済むのではないかと思っています」 バビオのマイクロチップの所有者変更の際、坂上さんは事務局から元飼い主の方からの伝言を預かったそうだ。 「『氷が大好きでボリボリ食べます』『朝晩の排便・尿ができるようにしつけしております』とのことでした。センターに引き渡すとは、殺処分になることを了承したということです。 それは、懐いていたであろうバビオを殺してもいいということ。氷のことなんてどうだっていいです。トイレだって朝、夕、夜の散歩時だけでなく、したくなればシートで上手にできます。 命をなんだと思っているのだろうと、悔しくて悲しくて涙が止まりませんでした。 バビオは、そんな私を見て、困ったように私の顔を舐め続けていました。 バビオに恐怖を感じさせるようにしたのは誰なのか。その恐怖から自分を守るために、歯を出すようになってしまったことになぜ気づけなかったのでしょう」 ◇家族の一員として一度は迎え入れた犬を、「殺処分」前提で保健所に連れてきた飼い主が、「氷が大好きでボリボリ食べます」「朝晩の排便・尿ができるようにしつけしております」とわざわざ言い添えたのは、どんな気持ちからだったのだろうか。 「なぜ咬んでしまうのか」をバビオの目線で探り、バビオの過去を想像し、バビオを“捨てた”人間の後始末の責任の受け皿にあえてなろうとする坂上さんの家で、バビオは大きな変化を遂げた。 後編「歯を削られ、恐怖で躾られ、殺処分の対象にされた保護犬が再び人を信頼できるようになるまで」で詳しくお伝えする。
坂上 知枝、長谷川 あや