銅メダルの裏側にあったもの/松山英樹のコーチ・黒宮幹仁が語る2024年の歩み<前編>
それでもアドレナリンがプラスになり、「逆方向に振れていけばいいかな」と期待を込めて見送ったが、初日は「76」をたたき63位タイ発進。優勝候補がまさかの予選通過“圏外”からのスタートとなった。「マスターズは初日から一つもミスできない試合。普通の試合って2、3日ゾーンに入れたら勝てますが、あの試合だけは練習日から含めて7日間ゾーンじゃないと勝てない」 万全の状態を作ってきたと思っていた黒宮にとっては、現場での松山の状態の変化は誤算だった。「マスターズのタイトルが欲しいから、1月から3月まで準備して(優勝を)獲りやすい位置に立たせてあげたい。さらに現場でもプラスアルファで何ができるかを考えて準備してきました。だけど、そこでちょっと違う方向に歯車が回ってしまった」。松山は予選落ちを免れたものの、優勝には程遠い位置でオーガスタを後にした。 悔しい経験は黒宮にリベンジの気持ちを芽生えさせた。「あと3回とか4回、あそこでやりたい。そう思う試合って唯一マスターズしかない。来年はどうやってやろうかなって、オフの期間もずっと考えていましたよ。今年は万全な状態だったからこそ、逆に『こうやって状態が変わるんだな』というのがすごくよく見えた。体調が万全でコースとちゃんとバトルして、ちゃんと負けた。悔しくもありますが、それ以上に得たものも大きいです」
今年の勝因はただひとつ「練習量が戻ってきたこと」
黒宮が松山のコーチとして帯同するようになったのは、3年前の「ZOZOチャンピオンシップ」から。松山の体の状態は決して万全とは言えず、まさに「けがと折り合うスイング」を試みていた。今年は、ようやくそのけがの不安がない状態で一年間を戦えた年でもあった。「(けがをしていた)首の状態も戻って、この一年間しっかり練習できたことが彼にとって良かったと思います」と振り返る。 体の状態の良さを作った陰の立役者として、黒宮は一緒に松山をサポートする須崎雄矢トレーナーを称える。「須崎さんがほんと頑張ってくれたと思います。松山プロにやってほしいスイングがあっても、それに対して体が動かなければ何の意味もない。須崎さんには『頼むから首だけは』っていつも言っていたんですよ。腰、背中の痛みは、まだ球は打てる。でも首は顔に近く、痛みをより感じやすいので本当に球が打てないんです」