グローバル経済はまだまだ続くのか? 世界を直接、支配をせず「秩序」を作ったアメリカが、変貌する可能性はあるのか?
なぜアメリカは世界支配のチャンスを手放したのか?
だがこれは、一種の逃避のように見えないだろうか? アメリカは勝利を目前にしながら、世界を支配する帝国になるチャンスをなぜ手放したのか? まず、数の問題があった。1945年当時の西欧の人口は、アメリカの人口とほぼ同じだった。これはソ連の人口とほぼ同じでもある。人口の多い東アジアや南アジアを別にしたとしても、終戦時のアメリカには、それだけの領土を維持できる力がなく、単純に計算してみればわかるように、世界規模の帝国を運営できるほどの占領軍を招集することもできなかった。 距離の問題もあった。アメリカ海軍の力をもってしても、大西洋や太平洋は巨大な堀のようなものであり、いわば諸刃の剣だった。水平線の数千㎞彼方に守備隊を常駐させるのは、物流面から見ても範囲という点から見ても、とても現実的ではなかった。 アメリカがその後の数十年間で気づいていくように、現地の人々が望んでいない場合、地球の反対側の国を占領下に置くのは難しい。朝鮮半島、ベトナム、レバノン、イラク、アフガニスタンなど、一度に一か所ずつしか管理しようとしていなかったにもかかわらず、たいていは対処しきれなかった。 ドイツやフランス、イタリア、トルコ、アラブ諸国、イラン、パキスタン、インド、インドネシア、マレーシア、日本、中国(および韓国、ベトナム、レバノン、イラク、アフガニスタン)をすべて同時に占領すればどうなるかは、想像するまでもない。 地理の問題もあった。ソ連は巨大な大陸国家であり、大規模で動きの遅い陸上部隊を備えている。それに対してアメリカの軍事力は、同盟国のなかでは最大だったかもしれないが、その力は主に海軍力だった。アメリカの軍事力の大半は水を必要としており、最寄りの友好国の港から1600㎞も離れた陸地で戦うことを想定していない。そのため、ソ連の兵士と一対一で戦うという選択肢はありえなかった。 文化の衝突という問題もあった。アメリカは、近代世界初の民主主義国家だった。民主主義国は、自国を守り、独裁を打破し、真実や正義などのために闘う。それなのに、現地の人々から搾取することを明確な目的として、長期にわたり占領するというのはどうだろう?そんなことはなかなか受け入れられないに違いない。 組織的な性質のミスマッチという問題もあった。アメリカが連邦国家(州政府が中央政府と同程度の権力を行使する)なのには、それなりの理由がある。この国では、安全保障上有利な地理的条件と、豊かな経済をもたらす地理的条件とが相まって、連邦政府がするべき仕事があまりなかった。アメリカ史の最初の100年ほどの間、連邦政府が常に担っていた仕事と言えば、道路の建設や移民の規制、関税の徴収ぐらいだった。 このように歴史の大半にわたり統治を必要としてこなかったため、アメリカには卓越した統治の伝統がない。それを考えれば、アメリカの2倍もの面積がある外国の領地を管理することなど、とてもできなかったに違いない。アメリカ人は統治が本当に苦手なのだ。 ソ連に対抗する帝国をつくりあげられない(あるいはそのつもりがない)のであれば、アメリカは同盟国をつくる必要があった。十分な効果を生み出せるほど数が多く、アメリカからの距離を縮められるほどソ連に近く、アメリカの海軍を水陸両面で補強できるほど陸上戦闘に熟達し、自国の防衛費をまかなえるほど裕福で、自国の独立を維持するために必要とあらば血を流す覚悟のある同盟国である。 自国の領土にアメリカの占領軍が駐留し、自国の企業の役員室にアメリカの税関職員がいるような状況では、そのような同盟国を確保することはできない。
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