「Osaka Art & Design 2024」(大阪市内)開幕レポート。何気ない日常のなかで多様なカルチャーに触れる
大阪の街を巡りながら、様々なアートやデザインに出会うエリア周遊型イベント「Osaka Art & Design 2024」が今年もスタートした。会期は6月25日まで。キービジュアルを担当したのはグラフィックデザイナーの芝野健太。 同イベントは2025年に控える大阪関西万博に向け、大阪のクリエイティブカルチャーを全国・世界発信することを目的とするものだ。今年は「Resonance(共鳴の拡張)」をテーマに、数多くのクリエイターらの作品やプロジェクトが市内各所の55拠点をつないでいる。大阪に根付くカルチャーを土台に、どのようなプロジェクトが展開されているのか。ここでは、キタ、中央、ミナミのエリアごとにいくつか会場をピックアップして紹介する。 キタエリア(梅田、堂島、中之島、北新地、天満 など) 阪急うめだ本店では、館内の3つの会場で109名のアーティストによる作品を紹介している。9階では椿昇のキュレーションによる「HANKYU ART FAIR 2024」も開催。アートマーケットがいまだ発展途上な日本国内において、作品を購入することや暮らしのなかでのアートを楽しむ方法なども合わせて発信している。 また、同フロアではデザイナー・倉俣史朗の代表作《ミス・ブランチ》が展示されているほか、人通りの多い1階コンコースのショーウィンドウには顧剣亨やたかくらかずきをはじめとする8名のアーティストらによる作品も紹介されており、日常のなかでアートに触れる機会が生み出されている。 大丸梅田店は、1、3、4、15階でアートプロジェクトを展開。例えば、1階ではイギリスのグラフィックアーティスト、ニック・ウォーカー(Nick Walker)と、ストリートアーティスト、SheOne(James Choules)によるコラボ作品が展示されているほか、15階では12のギャラリーからアート作品を週替わりで紹介する「Upecoming Artists in DAINARU UNEDA」も開催中だ。 中之島のなにわ橋駅地下1階「アートエリアB1」では、「HIZO market(秘蔵マーケット)」が開催されている。これは、作家らによるプロトタイプであったりなんらかの理由で出展できなかった作品を、一般的に手に入れることができない「秘蔵」として展示・販売するものだ。人の目に触れる機会がなかったものに改めて価値を見出すこの仕立ては大変面白く、かつ売上は運営費を除き、能登半島地震の義援金として寄付されるチャリティプロジェクトとなっている点も有意義なものであると感じた。 クリエイティブユニット・grafによって2020年に設立されたオルタナティブスペース「graf porch」では、「MATERIAL ECHO」といった企画が行われている。日本には木材利用のために管理されてきた山が数多くあるものの、海外から輸入された安価な木材の流通が原因となり山の荒廃が進んでいるといった現状がある。grafが林業従事者と協業するなかで感じたそういった課題をもとに、本企画では規格外となった木材と、その使い道の提案としてのプロダクトをいくつか紹介している。 デザインに合わせて素材を選ぶのではなく、素材に合わせてデザインを考える、こういったデザインの実践が社会と結びついていくことで、ものづくりの在り方を変えていくことができるのではないだろうか。 中央エリア(京町堀、本町、南船場) 中央エリアからは光を用いたアプローチを行うアーティストを2組紹介する。 会員制のESC Garage & Clubでは、パリ在住のアートユニット・NONOTAKによってクルマとアートを楽しめる特別な空間が生み出されている。白い光と音を組みあわせた幾何学的なこの空間に愛車を設置することで、新たなクルマの楽しみ方を創出している。 2021年に日本初上陸した、アメリカのマリオット・インターナショナル系列のラグジュアリー・ライフスタイルホテル「W大阪」では、新進気鋭のアーティスト・工藤玲によるネオンを用いた作品を展示する「VAPID」が開催されている。工藤は「ネオンの光は暗闇をかき消さず、調和する光」であると考え、その在り方を模索し続けているという。大阪の中心部ならではの華やかさと遊び心のあるこのホテルで、これらのアートを楽しみながらゆっくりと過ごすのも良いだろう。 ミナミエリア(心斎橋、難波、道頓堀 など) 大阪高島屋では、館内や屋外の幅広いエリアでイベントが開催されている。例えば、1階ショーウィンドウやフロア内では衣笠泰介による個展「Life is Color !」が6月4日まで開催されているほか、6月7日からは屋外広場なんばカーニバルモールでは鬼頭健吾による作品も設定される。 さらに6階まで上がると、テキスタイルデザイナー・須藤玲子率いるNUNOとコンテンポラリーデザインスタジオwe+によるキネティックなテキスタイルインスタレーションが展開。これは須藤によってデザインされた全国8ヶ所のテキスタイルを用いて制作されており、光が当たることで変化する布の表情に注目してほしい。 ほかにも7階催事場では、奈良県の「たんぽぽの家」、滋賀県の「やまなみ工房」、大阪府の「アトリエコーナス」に在籍する作家たちによる作品を展示する「COLOR FULL COLORS」も開催中。会期中の土日には作家らによる公開制作も行われているため、タイミングが合えば足を運んでみてほしい。 大丸心斎橋店では、同店にゆかりのある3名のアーティスト、ドナルド・ロバートソン、ロブ・ライアン、ジェイソン・ブルックスの協力のもとチャリティーオークションが実施されている。売上金は全額、日本赤十字社を通じて「令和6年能登半島地震災害義援金」に寄付されるほか、会場ではアーティストらによるメッセージも映像にて上映されている。 また、8階のArtglorieux GALLERY OF OSAKAでは、新山拓による個展も開催中だ。現地取材をもとに山の岩肌を描きながら、山の持つ崇高なエネルギーや美しさを可視化している。 南海なんば駅2階のコンコースでは、アーティスト・高遠まきによる《Hopeful monster》が目を引くだろう。プロの社交ダンサーとして身体表現の実践も行ってきたという高遠は、日常生活における不可思議な物事を公共空間に出現させることでその境界をあいまいなものにさせるバルーンオブジェを制作した。展示作品のうちのひとつ「空気彫刻:ソフトスカルプチャーシリーズ」は、センサーで動くといったインタラクティブ性も兼ね備えており、身体表現を行ってきた高遠ならではの表現手法であると言えるだろう。 南堀江のTEZUKAYAMA GALLERYでは、2つの展示が6月15日まで開催中だ。ひとつめのフロアで開催されている画家・鈴木雅明の「Follow the Reflections」は同ギャラリーでの18年ぶりとなる個展だ。風景のなかの「人工の光」を描いてきた鈴木による過去作と、改めて同じ場所を描いた新作も並べて展示されている。 メインフロアで開催されている加藤智大の個展「binary」では、コールテン鋼を用いた彫刻作品が並ぶ。鉄の輪で立体化された巨大な頭部は、ライティングによって落とされる影とも交わりモアレを起こしており、鉄という重く固い素愛でありながらもその存在自体が揺らいでいるような不思議な鑑賞体験を味わうことができる。 また、エスパス ルイ・ヴィトン大阪では、アイザック・ジュリアンの個展「Ten Thousand Waves」も開催中(~9月22日)。2004年に起こったイギリスの海岸事故で亡くなった中国人労働者たちの背景に着目し制作された大規模なヴィデオインスタレーションだ。比較的長い上映時間のため、充分な時間を確保して足を運んでほしい。会場レポートは こちら。 「Osaka Art & Design 2024」は大阪市内広域で行われているため会期中にすべてをみて回るのは難しいかもしれない。しかし裏を返せば、それは日常空間のふとした瞬間にアートに触れることができるということだ。同イベントは何気ない毎日のなかで偶然にアートと出会う機会を与えてくれるものであると言えるだろう。
文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)