数学の講師→伝説のギャンブラー、投資家へ…。エド・ソープが辿り着いた「人生で一番大切なこと」【金融ジャーナリストが解説】
エド・ソープの「人生をおおいに豊かにした決断」
伝説のギャンブラーであり投資家でもあり、生きる喜びにあふれたエド・ソープは、人生をどのように組みたてれば幸せになれる確率があがるかを彼らしく合理的に考えている。彼にとって人生をおおいに豊かにした決断は、カリフォルニア州ニューポートビーチに、太平洋に沈む夕陽を望むウォーターフロントの家を購入したことだという。「楽しく過ごすための最高の場所」だとソープは言う。 「スモッグとゴミに埋もれ、騒音がひどくて天気もひどい、場所を移動するだけでひと苦労のゴタゴタした街にはもう住めない。空は晴れて、風は心地よく、屋外で運動ができて、美しい景色に囲まれ、ハイキングやセーリング、スキューバダイビングができる場所で生きていたい*」 *ソープはその後、海岸に沿って6、7キロ離れたところにあるラグナビーチに引っ越し、さらに海に近づいた。 数学の講師として控えめな報酬でキャリアをスタートさせたソープは、投資が成功したことで得られた贅沢のすばらしさを認めている。持ち物のなかで気に入っているものがあるかと問うと、彼はにっこり笑って答える。「テスラはいいね。本当に楽しい。最高の車だ」 。だが彼は、もっと金があれば、もっと車が、もっと家が、なんでもいいからとにかくなんでももっとあれば、もっと幸せになれるという幻想には引きずられなかった。 「誰と一緒に過ごすかが、おそらく人生で一番大切なことだと思う」 。結婚55年で伴侶を亡くし、のちに再婚したソープは言う。「ただ物を増やすことだけを考えている人にはそれがわからない。最後にたくさんの物を手に入れたとしても、物を追いかけるだけの人生をおくってきたことになる」。 ソープが言うように、金や物を追いもとめるあまり、もっとたいせつなことを見失ってしまうと、生き方にかかわる問題が起こってくる。ソープは、ヘッジファンド・マネジャーとしてのキャリアのなかで、そうしようと思えば、顧客にもっと金を出させたり、自分の取り分を増やしたりすることも簡単にできた。 だが彼は、自分が顧客だったら何が「公正で妥当」だと思うかを自問した。その結果、顧客が利益をあげなければ、自分は何も得られないように報奨金(インセンティブ)を設計した。 「他者を気にせず、自分中心で乱暴にふるまい、人から金をくすねようとする者のほうが金儲けの面では有利に見えるかもしれない」とソープは言う。「たしかにそれは彼らが望むものを手に入れるための強みなのかもしれない。死骸から多くの肉を剥ぎとれるかもしれない。だが、彼らの人生は豊かじゃないし、それに気づかない。終わりが来たとき、彼らは人生をむだに生きたことになる」。 これらのことは私たちに警告を突きつける。金のために何を犠牲にするのか、あるいはしないのかをはっきりと自覚しなければならない──たとえば、家族や友人との温かい関係、花開くまでに時間のかかる才能や野心、物質的な利益はもたらさない体験を味わう時間、守るほど儲けにくくなる社会の価値基準。 ソープに、これまでの人生の選択に後悔はないかと尋ねたら、「信念に基づいて選んだことに後悔はない」と返ってきた。成功した豊かな人生には、他者を傷つけず、高潔にふるまってきた自身への尊敬の念もだいじな要素として含まれるのだ。 金融ジャーナリスト ウィリアム・グリーン
ウィリアム・グリーン
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