【ミャンマー】ヒトやマネー流入で住宅高騰 ヤンゴン、開発停滞続き供給不足
ミャンマーの最大都市を抱えるヤンゴン地域の住宅が高騰している。3年以上前の軍事クーデターを契機とした大型開発の停滞で供給不足が続く中、紛争から逃れてきた人が同都市圏に流入。自国通貨チャットへの信頼が揺らいで安全資産を求めるニーズが高まっていることも土地と住宅の価格を押し上げる。現地の不動産コンサルタントからは、いびつな市場構造を危ぶむ声が漏れる。【小故島弘善】 ヤンゴンの国際不動産コンサルティング会社CIMプロパティーコンサルタントのアソシエート、マシュー・トゥン氏は「中低価格帯のコンドミニアム(分譲マンション)が地区を問わず上昇している」と指摘する。7~9月の価格を今年1月と比べると、ヤンゴンのダウンタウン(中央商業地区=CBD)、CBD以外の市内、郊外の中低価格帯の物件価格が軒並み約40%上昇した。 トゥン氏は「ヤンゴンの物件価格の上昇率は(第2都市の)マンダレーに迫る」と指摘。マンダレーには、昨年10月以降の国軍と少数民族武装勢力との紛争激化で北東部シャン州北部の町を追われた人々が流入。各地から比較的平穏なヤンゴンに移住する人も増えており、物件需要が増えているという。 地価も大きく上昇しており、「市郊外でもCBD並みに高い、ばかげた状況」(トゥン氏)だ。ヤンゴンに移住する人の増加のみならず、通貨安リスクを回避するためにマネーが不動産市場に向かっていることが価格上昇を引き起こしている。 今年にアパートの1室を購入したヤンゴン市民は「まとまった資金があれば不動産購入を検討する人が多い」と話す。自動車や金も人気が高いが、不透明な政治に左右されて乱高下したり、軍事政権による統制の影響を受けたりする恐れがある。不動産が資産の逃避先として最も安定しているとみている。 ■今後の供給は依然不透明 供給面の問題も続いている。クーデター後は外資系などによる大型開発が停滞。新型コロナウイルス感染症の流行も重なり遅れていた開発の一部が完成して今年は約1,000戸の新規供給が予定されるものの、供給不足は解消されていない。 CIMのリサーチアナリスト、ミャノーテコーコー氏は分譲マンション市況について、「供給不足と建設費上昇、物価高が物件の価格と賃料を倍増させた」と話した。手頃な物件が少なくなっており、高級マンションは価格が不安定な状況という。 同氏によると、7~9月の高級マンションの販売価格は1平方フィート当たり平均で3,324米ドル(約49万8,000円)。価格帯を3段階に分けると◇ミドル=1,935米ドル◇アッパーミドル=2,737米ドル◇ハイエンド=5,301米ドル――で、前期からハイエンドの価格が上昇したものの他は下落した。 ミャノーテコーコー氏は「価格の下落には外国為替相場が影響した」と話した。ヤンゴンでの物件の売買はチャット建てあるいは米ドル建てで行われる慣習があり、特にチャット建ての取引が外国為替相場の乱高下の影響を受けた可能性がある。 チャットの実勢レートは今年8月中旬に1米ドル=7,000チャット近くと過去最安値をつけた。以降はやや持ち直しているが、2021年2月のクーデター直前の1,300チャット台前半と比べると3分の1以下。軍政が長期化する中で先行きは不透明な状況だ。 マンションやホテル、オフィス、商業施設などの複合開発事業の行方は不透明で、今後の供給状況は読みにくい。「外資系ホテル開発では様子見が継続」(ミャノーテコーコー氏)。CIMのマーケットアナリスト、タンポンピェーリン氏は、商業ビル「Mタワー」(地場モッタマ・ホールディングス)開発の進展で昨年からオフィスと商業施設で新規供給があったとしつつも、「既存の開発事業がどうなるか明確でない」と話した。