脳科学者が考察。「叱らない教育」は本当に正しいのか?
優しさだけだと男は調子に乗る!?
このリサーチでわかったもう1つのことは、優しいだけの迎合タイプの親もとで育った子に「ある弊害」が起きたことです。 それは、迎合タイプの親に育てられた男の子は大人になって「ルールを守る性格(遵法意識/誠実性)」がマイナスになっていたという衝撃の事実でした。 「お金を盗んではいけない」 「飲酒運転をしてはいけない」 「お世話になった人には恩を返すべき」 「人には公平に接する」 ある意味、当たり前のことだと思うでしょう。 しかし、迎合タイプ(優しいだけ)の親のもとで育った男の子だけは、これらを平気で破るような性格傾向が判明したのです。逆に女の子は、ほめても誠実さはプラスに育っていました。 この結果はあくまでも相関関係で、直接の原因かどうかまではわかりません。しかし「猿もおだてりゃ、木に登る」ように、男の子は褒めすぎると「自分はすごい人だ」と思い込んで調子に乗り、天狗(自己中心的)になってしまう確率が高くなることが、私が現場で行っているリサーチでもわかっています。
甘やかされて育った富裕層の子の将来
よく芸能人や有名な経営者の子が、何不自由ない暮らしをさせてもらい、最終的にドラッグや犯罪に手を染めるニュースを見ることがあります。これも、もしかしたら、親が多忙のため、子どもへの罪悪感で叱らずにほめるばかりの育て方をしたことが1つの要因になっているのかもしれません。 もちろん、感情的になって激怒したり、罰を与えたり、厳しすぎる子育てはよくありません。子どものメンタルに悪い影響を与えます。スタンフォード大学の研究でも、強い口調で言い過ぎると「誠実さ」が弱まってしまったり、「自分でコントロールする力」や「目標に向かって計画を自主的に立てる力」も弱まってしまうこともわかっています(*5)。
本物の愛ある子育てが減っている
子どもの能力を最大限に伸ばす親のタイプは、「厳しい+ほめる」タイプの支援型です。 昔から、口は厳しいけど愛がある人がいますが、このような支援型の親のもとで育った子どもは、男女ともに誠実さも最も高く、メンタルの状態(前向きさ)もよく、社会性、人を助ける力、収入などに至るまで、あらゆる項目で最も高いスコアを上げます。 昔から言われる「アメとムチの教育」は、真に子どもの能力を伸ばし、限界に立ち向かう自立した大人に成長させてくれるのかもしれません。 能力はないのに「自分はすごい」と思い込むことを、専門用語で「ダニング・クルーガー効果」と言います(*6)。もし我が子がこのようなタイプだと感じたら、自分が知らないうちに迎合タイプになっているかもしれませんので、十分に注意してください。 西剛志/Takeyuki Nishi 脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて2万人以上に講演会を提供。『世界仰天ニュース』『モーニングショー』『カズレーザーと学ぶ。』などをはじめメディア出演も多数。TBS Podcast「脳科学、脳LIFE」レギュラー。著書に20万部のベストセラーとなった『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える 「やりたいこと」の見つけ方』など海外を含めて累計36万部突破。最新刊『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』も好評発売中。