ハイブリッド初オーバル戦は、システム未稼働車が最速に。「大金を投じてつまらなくするなんて」/インディカー
2024年NTTインディカー・シリーズのシーズン折り返し点である第9戦ミド・オハイオで実戦に初投入されたハイブリッド・システムが、その1週間後にオーバルレースでも初めて使用された。 【写真】優勝を左右したピット戦争の様子 今年もアイオワ大会は週末に2レースを行うダブルヘッダーでの開催で、全長0.875マイル(約1.4km)のハイスピードオーバルにてシリーズ第10/11戦が実施された。 ■最速タイムはハイブリッド未使用 ダブルヘッダーの予選は、2レース分をいっぺんにこなすパターンが定型化している。今回は金曜日の午後に長めのプラクティスを行い、レース1の決勝日にプラクティスなしでいきなりの予選となった。 アタックはひとりずつ行われ、ポイントランキング順でコースイン。順位を競うスピードについては連続で2周分が計測され、1周目の記録が1レース目、計測2周目が2レース目用として記録される。 予選自体は非常に興味深い争いとなったが、今回はハイブリッドシステムのもたらす効果よりも、アイオワ・スピードウェイがシーズンオフに行った路面の再舗装がパフォーマンスに断然大きな影響を及ぼしていた。再舗装によってバンピーだったトラックがスムーズになり、グリップが大幅に向上していたためだ。 結果として、1レース目用の最速はコルトン・ハータ(アンドレッティ・グローバル)による17秒1506=187.655mphで、2レース目用の最速はスコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)の17秒0966=188.248mphとなった。どちらの記録も、スーパーハイダウンフォース時代であった2014年に、エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)がマークしていたコース・レコードを軽々と打ち破った。 ここまでの話だと、ハイブリッド化でマシンはさらにスピードアップし、決勝でのバトルもさらに白熱しそうに感じるが、実はハータの予選アタックは計測2ラップともにハイブリッドシステムがまったく機能していなかったのだ。それでも彼は1ラップ目が出場27台のトップだった。 一方のマクラフランは、2ラップともエネルギーリカバリーシステム(ERS)のパワーを使っており、計測2周目で新コースレコードを打ち立てている。 「アイオワのように小さなコースにおける60馬力は大きい」と予選後のハータはコメントしていたが、プラス60馬力なしでポールポジションを獲得した後では、説得力を欠いていた。 このハータが新システムを使用しなかった理由がトラブルなのかは不明だ。しかしジャック・ハーベイ(デイル・コイン・レーシング)については、ハイブリッド・システムがトラブルに見舞われ、正常に作用していなかった。 そのため、彼は調整を行いながら3回も予選アタックを行っている。さらに決勝では、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)がレース1後に、「今回も作動していない時があった」と口にしていた。そしてレース1とレース2の間には、計4台がベルハウジングごとERSをアッセンブリー交換。まだ初期トラブルが出ている状況と判断され、交換に対するペナルティはなしとされた。 さて、決勝レースでのハイブリッドシステムの効果に注目するべく、インディカーのアプリケーションでドライバーたちのERS使用状況を見ながら観戦したが、ハイブリッドパワーを使ったオーバーテイクはほぼ見られなかった。順位変動はスタートおよびリスタート直後、そしてピットストップで起こっただけだった。 ■新舗装により“スムーズ過ぎる”オーバルに 決勝ではまず、グリップの高められた路面によってタイヤのグリップ低下がほとんど起こらなかったことがポイントとなった。 それにより、ドライバーのスキルの差、マシンセッティングの差、タイヤ戦略の差でオーバーテイクが生み出されることがほとんどなかったのだ。実際はコーナー部だけの新舗装ではあったのだが、それでもアイオワ名物のバンプがなくなったことでスピードが上がり、走行ラインがイン側1本のみに近い状態となってもいた。 多くのチームは、ハイブリッド導入前の第8戦ラグナ・セカ後に当地アイオワでテストを行っており、昨年よりも大幅にスピードアップすることが判明していた。 その事態に対応するためにインディカーはルール変更してダウンフォース量を減らし、ファイアストンには幾分減りの早い右フロントタイヤの供給を依頼したのだ。しかし、それらふたつの対応策では不充分だった。 タイヤについてはもっと摩耗して、周回を重ねるとコントロールが難しくなる状況が作り出されなければならなかった。だが実際は、各スティント終盤に抜きつ抜かれつのバトルが実現するこはなく、タイヤ戦略でアドバンテージが得られる戦いにもなっていなかった。 各車、グリップの高いマシンで安定した周回を重ねるばかりで、順位変動のない退屈なレースとなってしまった。 レース2の終盤戦では、トップ争いをするウィル・パワー(チーム・ペンスキー)とアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)がバックマーカーに追いついた場面もあり、レース1にはなかった接近が期待された。 バックマーカーらも少しの間隔を保った状態でポジションを争っており、戦況が切り替わる予兆にもなりそうだったのだが、ここでパワーはバックマーカーのペースに合わせて走り始めた。 パワーがバックマーカーたちの間を縫って逃げようとすれば、パロウにアタックのチャンスを与えてしまう可能性が出てくる。そこでバックマーカーとの間隔をある程度に保ちつつ、複数台が作りだすタービュランス(乱気流)を利用してパロウの接近を難しくさせるという、いぶし銀な戦略が功を奏したかたちとなった。 ■第一の課題はマシンバランスの変化か 今回の第10/11戦アイオワで順位変動が少なかったのは、ハイブリッド化でマシンの後部が重くなっている点も大きく影響していたようだ。 ロードコースのミド・オハイオでも、「オーバーテイクを仕掛けようという時、重くなっているマシンは俊敏さを欠いていた」とコメントするドライバーが見られたが、その傾向がオーバルではより顕著であったのかもしれない。 さらに、ドライバー兼チームオーナーのエド・カーペンターはレース後に、「大金を投じ、おもしろかったレースをつまらなくするなんて、納得が行かない」と話し、「残りのシーズンではハイブリッド採用をやめることも検討すべき」との示唆さえ行っていた。そうなることはほとんどあり得ないだろうが……。 過去2年のアイオワ・スピードウェイのレースでは、急なバンクを活かしたサイド・バイ・サイドのスリリングなバトルが見られていた。 近年では、マシンの仕上がりが素晴らしかったジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)が、トップ争いをしていたチームメイトふたりのウィル・パワーとスコット・マクラフランを一気にまとめてパス!なんていう豪快なシーンもあったぐらいだ。 今回は、ハイブリッド化でバトルにはさらに拍車がかかるという期待感を胸に、大勢のファンがアイオワに集まったのだが、彼らの期待した通りのレースには残念ながらならなかった。 ■崩れてしまったオーバルレースの三要素 インディカーのオーバルレースは、空力レギュレーション、使用タイヤ、コースコンディションの三要素が見事に噛み合った時、驚くほどエキサイティングなものになる。 お互いのスキルを信頼し合ったドライバーたちが見せる超高速の接近戦は、ストックカーのオーバルバトルを遥かに上回る。世界中のどんなレースでも絶対に味わうことができない魅力がそこにはある。しかし、そのうちのひとつが満たされないだけで、インディカーのオーバルレースはオーバーテイク不能の一面的なレースになってしまうのだ。 そのため、アイオワのダブルヘッダーが”フォロー・ザ・リーダー”の退屈なレースとなってしまった原因は、ハイブリッド・システムの採用が最大の理由ではなかったとも言えるだろう。 事前のテストが一度のみ、それも新舗装という新たな要素が絡んだ状況もあり、今回はインディカーのレースオペレーションとテクニカル部門、そしてファイアストンタイヤが、ハイブリッド化による変化を的確に予測し切れていなかったのではないだろうか。 新舗装のもたらすグリップ、バンプが激減したことによるスピードアップ、暑過ぎない気候、ハイブリッド化で重くなったマシンのハンドリングなど、これらの絡み合う状況は簡単に予測などできないものであろう。 こうした状況で迎えたレースでは、エネルギーリカバリーシステム(ERS)のパワーを使わずに走るドライバーも少なくなかった。 なかには、コースの両サイドであるターン1とターン3への進入時に行うスロットル・オフ時に回生を行い、バックストレッチに乗ったところかターン4からの立ち上がり、あるいはその両方でパワーを追加するという走り方のドライバーもいたが、プラス60馬力は追い抜きの一助とはなっていなかった。 予選でもERSパワーに頼らなかったハータがレコードスピードでPP獲得をしてみせたように、今大会ではハイブリッドパワーがもたらす追加パワーよりも、重量バランスや新舗装の路面に合わせたセッティングの良し悪しこそがポイントとなっていたのだ。 ハイブリッドパワーがなくても、マシンが良ければ新システムを利用する使うライバルよりも速く走ることが可能、というのが現状だ。それは、8月17日に行われる次のオーバル戦、ワールド・ワイド・テクノロジー・レースウェイ大会でも同じなのだろうか。 今季はその後も、ミルウォーキー・マイルでのダブルヘッダー、さらには最終戦ナッシュビル・スーパースピードウェイとオーバルレースが後半戦に集中している。シーズン中盤のハイブリッド化が、残りのオーバルレースとチャンピオン争いをより面白くすることに期待したいところだが、一体どんな結末を迎えるだろうか。 (Report by Masahiko Amano / Amano e Associati) [オートスポーツweb 2024年07月19日]