前受金依存度の高い業種 1位は「衣装レンタル」 前受金ビジネスの法的整備が急務
業種別負債前受金比率 トップは貸衣しょう業が61.3%で突出
業種(細分類)別で、負債前受金比率を算出した。全企業での負債前受金比率は1.2%だった。 負債前受金比率のトップは、「貸衣しょう業」の61.3%で唯一、50%を超えた。貸衣しょう業は、成人式等の晴れ着や各種式典向けフォーマルウェア、ドレスなどのレンタルサービスがある。契約日やレンタル日前の指定期日までに全額前払いのケースが多く、負債前受金比率は突出した。2018年1月8日、成人の日に突然、全店舗で営業を停止した「はれのひ」事件が代表的な例として浮かぶ。 次いで、「外国語会話教授業」が41.7%で続く。外国語会話教授業は、一定期間の継続を前提とした契約が大半で、特定継続的役務提供にあたる契約が多く、前受金が膨らみやすい。代表的な事件では、2007年10月に業界シェア6割を占めた「ノヴァ」が負債439億円を抱え、会社更生法を申請、受講生約47万人に影響が出た。全国の英会話学校の生徒募集にも大きな打撃を与えた倒産となった。 上位20業種では、製造業とサービス業他が各7業種を占めた。
総資本前受金比率 上位20業種のうちサービス業他が半数を占める
業種(細分類)別で、総資本前受金比率(総資本に対し、前受金が占める比率)を算出した。専修学校など自己資本が潤沢な業種は、負債前受金比率が上位でも、総資本前受金比率ではランク外の業種もある。全企業での総資本前受金比率は0.8%だった。 業種別では、トップは負債前受金比率と同じ「貸衣しょう業」で47.6%。次いで、「外国語会話教授業」が27.0%だった。以下、プレイガイドなど「娯楽に附帯するサービス業」25.4%、「舟艇製造・修理業」22.9%、「呉服・服地小売業」21.2%と続く。 上位20業種では、消費者に近いサービス業他が10業種と半数を占める。負債前受金比率で上位20業種に入らなかった「エステティック業」「旅行業」「演芸・スポーツ等興行団」がランクインした。 総資本前受金比率が高い企業は、資金繰りが前受金の増減に大きく左右されやすい。新規顧客(契約)が減少に転じると、事業環境によっては一気に資金繰りに狂いが生じることになる。 一般的には、有利子負債構成比率(総資本に対し、有利子負債が占める比率)が財務リスク把握に多く活用されている。業種別で総資本前受金比率と有利子負債構成比率をクロス集計すると、総資本前受金比率の高い業種は、有利子負債構成比率が全業種平均より低い業種が多い。これは前受金ビジネスでは必要資金を借入金でなく前受金で充当しているためで、有利子負債構成比率では財務リスクを測ることが難しい。 ◇ ◇ ◇ 最近の前受金ビジネスの経営破たんでは、脱毛サロン「銀座カラー」を運営する(株)エム・シーネットワークスジャパンが2023年12月に破産している。 他にも、前述した振袖レンタルのはれのひ(株)(2018年1月破産)、語学スクール経営の(株)ノヴァ(2007年10月会社更生法、棄却後11月に破産)に限らず、最近は若者を対象にした歯科矯正、脱毛など美容系の前受金ビジネスの破綻も目立つ。また、着手金まで含めるとコンサルタント、旅行業、冠婚葬祭、マルチ商法も広義では前受金ビジネスに入るケースもある。 長期・継続的な役務提供と、これに対する高額の対価を約する取引は「特定継続的役務提供」として規制対象となり、現在はエステティック業や語学教室を含む7つの役務が指定されている。規制により、前受金の保全措置について契約内容の書面に記載を義務付けられているが、義務は記載のみで提供は義務付けられていない。 消費者が契約内容を十分に理解したうえで契約に臨むことは当然重要だ。だが、前受金ビジネスの被害者を出さないためには、企業の情報開示の徹底と同時に、前受金の保全措置を義務付けるなど、消費者を守る仕組み作りが欠かせない。