大都市・名古屋に涼しい「木造」学童保育 建設や資金調達に走り回った親の思いとは?
父母が「セルフビルド」で建てた小屋も
一方の「山里第二」では、木造の施設づくりが「セルフビルド(自力建設)」で進んでいます。 建設を本格的に検討したのはここ1年。「やはり昨年の暑さが決定的でした」と指導員の松原輝子さんは話します。プレハブの保育室は手狭で暑く、外遊びも限界があるため、特に低学年の子どもたちが一時的に休む静養室を求める声が父母から上がりました。 山里の板倉造りとは別に情報を集め、岐阜県各務原市の木材会社が「ログキットハウス」を販売していると知り、保護者が現地まで訪問。そのうちの一人の久崎行義さんは一級建築士で、構造や法規制のチェックと建築確認申請などの手続きもスムーズに進められました。ただし、やはり市の助成対象にはならないため、約300万円のコストはこれまでの積み立てから充てることにしました。 規模は小さめで20平方メートルほどの平屋。部材はすでに出来上がっていて、人の手で組み上げていくだけです。基礎と柱を建てるまでは職人が担当しましたが、床張りや壁張り、建具の取り付けから屋根掛けまでも父母と指導員が協力して作業。子どもたちも簡単な作業を手伝い、4月下旬からの10連休の前半3日間で形はほぼ完成したそうです。 保護者代表の仲田祐一郎さんは「個人ではなかなかできないことができて充実感がいっぱい。子どもたちも自分の手でつくった空間で過ごすのがいい経験になるはず」と話しています。
見過ごされがちな学童保育の実情
全国学童保育連絡協議会の調査(2018年5月現在)によると、全国で開設されている学童保育所は約3万カ所。そのうち半数以上の55.6%は放課後の空き教室などの学校施設内に、11.7%は児童館内に、そして7%が公民館などその他の公的施設にあります。一方で、独立した学童専用施設は6.9%しかありません。 また、運営を父母会や地域関係者による運営委員会などが担っているのは全体の2割足らず。全国的には「公設公営」、あるいは民間企業やNPO法人による運営に移っていますが、名古屋市や札幌市、さいたま市などの政令市では父母の自主運営が中心。それだけ父母の負担も大きく、子育ての負担を軽くする時代に逆行する面もあります。 こうした中で「ログハウス風の施設を建てたといった例は聞くが、それでも全国で数えるほど。自分たちで伝統的な木造建築などを選んだという今回の名古屋の学童の取り組みは、子どもたちにとってどんな施設が必要かを考える上で非常に評価できる」と全国連協事務局次長の佐藤愛子さん。「どこでもできる」例ではないのでしょうが、都会の住宅地で輝く「木」と子どもたちの笑顔が、見過ごされがちな学童保育の実状や課題に目を向けるきっかけになることは間違いないでしょう。 (関口威人/Newdra)