大都市・名古屋に涼しい「木造」学童保育 建設や資金調達に走り回った親の思いとは?
猛暑しのぐため伝統木造で、資金は父母が調達
情報の出どころは「森と子ども未来会議」。名古屋市の運送会社に勤めながら、木の普及啓発活動にも取り組む鈴木建一さんが発起人となり、愛知県内の林業者や建築家でつくっていたグループです。中心メンバーの一人で春日井市の建築家、東海林(とうかいりん)修さんが手掛ける伝統的な「板倉造り(板倉構法)」の家を児童施設に生かせないかと、3年ほど前から学童保育の関係者にも働き掛けていました。 金さんは東海林さんに直接コンタクトを取り、山里学童について相談しました。東海林さんはちょうど数年前から愛知県が県産材をアピールする展示会などで使っていた「板倉の家」が払い下げられ、無償提供できる可能性を伝えました。しかし、それだけでは山里学童の児童を受け入れるための面積基準には不十分でした。基準に合わせて建て増すには、どうしても一千万円単位の資金が必要になります。 金さんたちは悩みましたが、決断を促したのは昨年の猛暑。「鉄骨のプレハブだとエアコンがあっても室内の温度が30度を下回らない。板倉構法なら夏も涼しい断熱効果や調湿効果が実証されている。子どもたちの健康と安全のために木造の保育所をという父母の思いが強まりました」。敷地は現在のプレハブに隣接する運動場を利用し、新築完成後に現在のプレハブを取り壊す方向となり、資金は父母が出し合って何とか調達できるめどが付きました。 東海林さんは大急ぎで設計をまとめ、今年4月に着工。払い下げの建物は児童の図書コーナーや静養室などとして、その隣に延べ床面積約160平方メートルの2階建てをつなげる造りにしました。愛知県産のスギ材を使い、柱と柱の間に細長い板を落とし込んでいく板倉構法は板壁も5.4センチと十分な厚みがあり、耐震性はもちろん防火構造としても国の認定を受けています。 6月7日の上棟式に合わせ、関係者向けに屋内を公開。すべての床や壁、天井が木に囲まれ、温かさや安心感が伝わってきました。1階と2階はらせん階段でつながっていますが、「支援の単位」を分けて2グループの児童をそれぞれに指導員が見守る計画。子どもたちは「僕は上かな? 下かな?」と心待ちの様子でした。 工務店の職人に交じり、父母たちは床下の防虫、防蟻剤を塗布する作業に参加。今後は外壁塗装やウッドデッキの板張りも手伝い、7月下旬の夏休み前までに引き渡しされる予定です。東海林さんは「完成すれば板倉造りによる児童施設としては全国初になる。子どもたちが家以上に長くいる場合もある学童の時間を、木造でより快適に過ごしてほしい」と話しています。