糖尿病で足の切断を告げられた…外来治療で回避する方法はある?【日本版「足病医」が足のトラブル解決】
【日本版「足病医」が足のトラブル解決】 「足の指にできた靴擦れで近所の病院を受診したら、足首での切断が必要と言われて…」 「痩せ」が糖尿病リスクを上げる…「スリムな体形であればいい」は間違い こう話すのは、銀座にオフィスを構える某企業で管理職を務める50代後半の女性。糖尿病と診断されてから、忙しい生活の中で食事や運動習慣に気を配り、血糖値は正常な範囲で保たれていたと言います。 しかし、糖尿病の方が避けられないのが神経障害と血行障害による糖尿病性足病変です。足の中指にできた靴擦れが潰瘍に進行し、そこから細菌感染が広がって骨が溶ける「骨髄炎」を引き起こしてしまったのです。受診した形成外科で指先だけでなく足首での切断が必要と言われ、「なんとか外来治療で切断を避けられないか」と、当院を受診されました。 傷の表面には、細菌や微生物からつくられた膜状の粘着物で、虫歯の原因ともされる「バイオフィルム」が存在しています。バイオフィルムは24時間経つと再形成されるので、歯磨きと同様に、日々、丁寧に洗浄する必要があります。しかし、十分に行えている人は非常に少ない。実際、糖尿病における慢性創傷の80%に、バイオフィルムの存在が確認されるといった報告もされています。 そこで近年、バイオフィルムの再形成を防ぐ創傷管理の方法として推奨されているのが「創傷衛生(ウンドハイジーン)」です。 具体的には、不織布ガーゼに泡立てたせっけんをつけ、患部を毎日欠かさずよく洗います。その際、創面に点状の出血斑が見られる程度の強さで行うのがポイントです。バイオフィルムの再形成を防ぐために、抗菌作用をもつ外用薬や創傷被覆材を処方し、傷の状態によっては、外来で「デブリードマン」と呼ばれる、患部に付着した壊死(えし)組織やバイオフィルムを完全に除去して傷の治りを促す外科処置を追加で行います。 靴の見直しも重要です。日々の生活に欠かせない歩行は、足の指先に過度な負荷がかかって傷の治癒を妨げる要因になりかねません。治療期間中は、踏み返し動作を制限して創傷部位にかかる圧力を減らす「除圧サンダル」を着用する必要があります。 冒頭の女性は、月1~2回の外来受診に加え、外来における簡単な外科的処置と抗生剤の内服と除圧サンダルを履いていただき、自宅でのウンドハイジーンを約3カ月間継続したところ、皮膚の潰瘍や骨髄炎が入院治療をせずに完治して足の切断を免れ、後に職場復帰を果たしました。 糖尿病性足病変により足の切断が必要と告げられても、外来治療だけで完治できるケースもあります。靴擦れや胼胝(べんち)など、切断のきっかけになる小さな傷を見逃さないよう毎日足の状態をチェックし、異常があれば早めに病院を受診してください。 (田中里佳/順天堂医院足の疾患センター長)