法律制定の背景に「家庭の事情の複雑化」も…配偶者を亡くした〈妻・夫〉の生活を守る「配偶者居住権」とはなにか?【税理士が解説】
近年の日本では、さまざまな家庭のあり方が想定されるようになり、それにともなって令和2年より「配偶者居住権」が制定されました。どのような権利であり、どのように活用されるのか、具体的に見ていきましょう。※本記事は、公認会計士・税理士・行政書士の深代勝美氏の著書『改訂3版 ゼロからはじめる相続 必ず知っておきたいこと100』(あさ出版)の中から一部を抜粋・再編集したものです。 年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
配偶者を亡くした〈妻・夫〉の生活を守る「配偶者居住権」
◆現行の問題点は老後の生活資金不足 配偶者が居住用不動産を取得すると、老後の生活資金が足りない場合があります。 たとえば居住用不動産が2,000万円、預貯金が3,000万円の合計5,000万円の場合、配偶者の法定相続分は1/2の2,500万円ですから、居住用不動産2,000万円を相続すると預貯金は500万円しか相続できません。これでは、老後の生活資金が心配です(図表1参照)。 ◆見直しのポイント 配偶者居住権は、配偶者が相続開始前に居住していた被相続人の所有の建物の使用を終身または一定期間、配偶者に認める制度です。 メリットとしては、配偶者は、配偶者居住権で自宅での居住を継続しながら、老後の生活資金が得られることです。 配偶者居住権は、所有権のおおよそ半額になりますので、所有権の2,000万円から1,000万円です。これであれば、配偶者は預貯金を1,500万円相続できます(図表2参照)。
配偶者居住権が利用されるケースとは?
◆高齢化社会の到来で、いろいろな家庭が想定されるようになり… 配偶者居住権は、相続人が配偶者と実子で相続人間での対立がない家庭においては、利用されないと考えられます。しかし、高齢化社会の到来でいろいろな家庭が想定されるようになりました。 利用例としては、図表3のように被相続人Aが亡くなり、相続人が配偶者Cと先妻の子Bの場合、被相続人Aが遺言で配偶者Cが居住している自宅の居住権を配偶者Cに遺贈するとすれば、配偶者Cは亡くなるまで自宅に住み続けられます。 一方で子どもは、配偶者が亡くなれば、配偶者居住権が消滅しますから、何の制限もない完全な所有権を取得することになります。 ◆遺贈での記載の注意点 遺産分割協議や、被相続人が遺言等で「配偶者が配偶者居住権を取得できるようにする」ことが必要です。 なお、配偶者居住権を遺言書で設定させる場合には「遺贈する」と記載します。「相続させる」と記載すると無効になります。