朝ドラ『虎に翼』轟太一の「日の丸弁当」にみる戦時下の日本の状況は? 「ぜいたくは敵だ」の生活が始まる
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では第7週「女の心は猫の目?」がスタート。昭和14年(1939)、主人公・猪爪寅子(演:伊藤沙莉)が高等試験司法科に合格し、雲野法律事務所で弁護士修習生としての生活を始めるところから描かれている。しかし、新生活の陰で日中戦争は長引き、ヨーロッパでの第二次世界大戦開戦も迫っていた……。今回は徐々に困窮しつつある日本の国内情勢をテーマにお届けする。 ■「日の丸弁当」の描写にみる戦時体制の日本 作中で寅子や花岡悟(演:岩田剛典)と共にランチタイムを過ごす轟太一(演:戸塚純貴)が日の丸弁当を頬張るシーンがあったが、米と梅干のみという日の丸弁当の奨励は当時の世情をよく表していた。 まずは時代背景について順を追って整理しよう。昭和12年(1937)7月に始まった日中戦争(ただしこの時点では「支那事変」などと呼称されていた)は泥沼化し、莫大な戦費を投入する日本政府によって国家総動員体制が進められていく。 同年9月以降、大日本帝国政府による軍国主義政策のひとつとして、「国民精神総動員」という国民運動が行われていた。要は「自己を犠牲にしてでも国家に尽くす精神」を根付かせようというものである。政府主導でメディアを利用して質素倹約や勤労奉仕、生活改善等が呼びかけられた。 さらに翌昭和13年(1938)5月には「国家総動員法」が施行され、日本中の全ての人的・物的資源を政府が統制運用できるように規定された。国への滅私奉公や質素倹約が推奨されると、「ほしがりません、勝つまでは」や「ぜいたくは敵だ」といったスローガンが盛んに流布されるようになった。 そして寅子たちが弁護士修習生として奮闘している昭和14年(1939)には、国民精神総動員委員会によって遊興営業の時間短縮、ネオン全廃、お中元・お歳暮の廃止、学生の長髪やパーマ禁止などの「生活刷新案」が可決されている。 同年9月には毎月1日が「興亜奉公日」と定められ、国旗掲揚、宮城遥拝(皇居の方向に敬礼・拝礼すること)、神社への参拝、勤労奉仕などが求められたまた、食事も一汁一菜の質素なものにすべしとされ、当然飲食・接客業は休業日となっていた。 日の丸弁当の奨励もその一環で、戦場で戦う兵士らの苦労を偲び、質素を極めようというものである。既に政府によって米穀の価格調整など流通販売が管理されるようになっていたが、この時点では台湾や朝鮮の米が内地に運ばれ、比較的安価で米を入手できたことが大きい。 高等試験司法科を合格し修習生に進んだ寅子や轟、久保田聡子(演:小林涼子)、中山千春(演:安藤輪子)らの奮闘が描かれる一方、轟の日の丸弁当、家計に頭を悩ませている様子で日記を記す母・はる(演:石田ゆり子)、そして兵隊ごっこをしている弟・直明(演:永瀬矢紘)の描写が気になるところだ。時代は着実に第二次世界大戦、太平洋戦争開戦に向かって進んでいる。
歴史人編集部