被災地で進む「緑の防潮堤」 津波を抑えることはできるのか?生育と防災効果を探る #これから私は
震災でコンクリート堤防を乗り越えた津波は、その落ちる勢いなどで堤防の陸側を基礎から削り取り、堤防全体を破壊した。これは河川の堤防決壊でも見られる「洗掘」というメカニズムだ。陸側を盛土して木を植えることで基礎が守られると宮脇氏は述べたという。 国交省ではこうした提案を含めて、堤防のあり方を検討した。2014年には海岸法を改正し、コンクリートと緑のいわば“ハイブリッド”な工法を「緑の防潮堤」の名称で海岸保全施設として位置付けた。
国交省東北地方整備局は、岩沼市と隣の山元町の海岸堤防の計3カ所で「緑の防潮堤」を試験的に整備。生育状況については有識者委員会でモニタリングされ、今年度内に最終の報告書や今後の維持管理マニュアルがまとまる見込みだ。 「初年度(2013年度)は台風被害にあって一部の樹種が枯れてしまいましたが、その後はすべての樹種で枯れることはなく順調に育っています」と整備局の担当者。クロマツの単植と広葉樹との混植でも、生存率にほとんど差はなかったという。
津波の勢いを減衰させるのか
では、緑の防潮堤の津波への減災効果はあるのだろうか。海岸工学を専門とする高知工科大学の佐藤愼司教授は、「過去の大津波で海岸林が持ちこたえた例はあり、一定の効果はあるだろう」と話した上で、こう指摘する。 「緑の防潮堤は、植物の根の張り方を予測したり、津波の規模に応じて設計したりすることは難しい。一方で景観をよくしたり環境を保全したり、住民が財産として大事にしたりするなどの意味もある。『緑にしたから大丈夫』と過信せず、工学や植物学など異分野の叡智を結集して確実に設計できる技術ができればいい」
一方、静岡県で海岸堤防の検討委員などを務める静岡大学防災総合センターの原田賢治准教授はこう述べる。 「南海トラフ地震に対してはコンクリート堤防だけでも大きな崩壊が起こらないような設計が求められている。『粘り強さ』は堤防内部にセメントを加えて補強するなどの方法でも確保でき、樹木はあくまで補助的なものと考えるべきでしょう」