被災地で進む「緑の防潮堤」 津波を抑えることはできるのか?生育と防災効果を探る #これから私は
きっかけは植物学者の「森の防潮堤」
もともと、沿岸地域に「森の防潮堤」を造り、津波被害を減らそうと呼び掛けたのは植物生態学者で横浜国立大学名誉教授の宮脇昭氏(93)だ。 その土地本来の「潜在自然植生」を研究していた宮脇氏は震災後、防災林のクロマツが根こそぎ倒れていた中で、タブノキやヤブツバキ、マサキなどの広葉樹が津波に耐えていたのを確認。瓦礫を活用した盛土に広葉樹を植えて「森の防潮堤」とする構想を、国や自治体に提案した。 細川護熙元首相が宮脇氏と一緒に構想を進めたいと名乗り出るなどしたため、行政側も条件付きで認めることになった。細川氏はのちに公益財団法人「鎮守の森のプロジェクト」を立ち上げ、理事長に就く。
宮脇氏側は希望の丘を計画していた岩沼市にも提案。市も賛同し実証試験を経て、2013年6月に第1回の植樹祭を開いた。当日、ボランティアら約4500人が苗木約3万本を植えた。 その後も地元市民らによって植樹は順調に進んだ。昨年に「ファイナル植樹祭」が開かれるはずだったが、コロナ禍で延期され、今年6月の開催を目指して準備が進められている。
地元のドングリで苗木づくりも
「市内の里山のドングリを育て、苗木にして(現場に)植えています。それが堤防になるなら、なお安心ですよ」 こう話すのは、地元の市民団体「丘サポ・いわぬま」で代表を務める鈴木正信さん(78)だ。希望の丘に苗木を提供したり、植樹指導などをしたりしている。 市内の美化ボランティア団体代表の大山秀雄さん(77)は、「私も3回ほど植樹祭に参加しました。丘に登ると眺めがいいし、津波から守ってくれる場所として期待しています」と話した。 生まれは青森県で、1960年のチリ地震津波を経験。二十数年前、岩沼に移り住んだとき、住宅地が海の間近まで迫っていることが気になっていた。 「海の近くに住むというのはそれなりの覚悟がいる。そのことは絶対に忘れちゃいけない」と強調した。
国も進める「緑の防潮堤」
宮脇氏はもともと、沿岸部に盛土を築いて植林したものを「堤防」とする構想だった。ただし、震災後に一部の地域では、国が主導するコンクリートの海岸堤防造りが優先された。 「宮脇はこのコンクリート堤防にも『緑を』と提案していたんです」と明かすのは、鎮守の森のプロジェクトの水田和宏事務局次長だ。