「魔法のiらんど」の今ーー「ホムペ」廃止後も月間3億PVの理由
――2020年のリニューアル以前、ガラケー主流の時代からスマホシフトの時代になった2010年代、「魔法のiらんど」にはどのような変遷があったのでしょうか。 みなさんご存じないですよね。スマホ対応など時代に合わせてサービスを拡充していましたが、やっていることの本質は全然変わっていなかったんです。現在の小説投稿サイトのベースとなった「ブック」という機能がありまして、それを中心に従来の「ホムペ」機能など各種サービスを展開していたので、サービスの根幹はまったく変わっていません。 スマホシフトに合わせてひと通りの対応をして、ひと通り閉じました。まず2010年ごろに、それまでガラケーのみに表示していたものをスマホやPCでも表示できるよう対応し、アプリが主流になってきたときにアプリも作りました。でも、要望に応えて対応したものの、その先に何を展開していこうということにもならず、アプリの提供は終了し、「スマホから利用できる」という状態だけが残りました。 ――ウェブサービスのほとんどはユーザーとともに年を重ねていくことが多いと思うのですが、魔法のiらんどはずっとその時代の10~20代女性がメインユーザーになっているようです。ユーザーの年齢層が以前と変わらないのはなぜでしょうか。 サービスというよりも作家さんのファンに紐付いているからだと思います。若い女性をメインターゲットにした作品がほとんどなので。 また、作品を読んだ女性ユーザーが「これなら私にも書けるかも」と書き手になることも珍しくはありません。そうして読み手が書き手になるサイクルが繰り返されていることも、ユーザーが入れ替わり続ける理由かもしれません。
SNSであまりシェアされないのに月間3億PVのワケ
――2000年代には「ケータイ小説」独特の文体で書かれた作品が目立ちましたが、現在の傾向は変化がありましたか? 最近は書籍化を目指したコンテストを開いているので、一般的な小説と同じような文体で書かれる方々が多いです。 執筆のモチベーションも書籍化を目指している方が多いのですが、ランキングで上位に入りたい、一定数以上のファンを獲得して反応を楽しみにしている、SNSでのコミュニティーで認められたい、といった方々もいらっしゃるようです。 ――『恋空』のころとは違い、今はSNSが主流の時代です。しかしウェブ小説の口コミというのは飲食店や商品などと異なり、SNSではあまり見かけないように思います。 それには理由があって、魔法のiらんどは特に、少しエロティックな内容だったり、恋愛の深いところを描いている作品が多いからだと思います。ご自身の趣味嗜好に強く寄ったものって、あまりSNSとは合わないといいますか。「誰かに薦めたいか」と言われるとちょっと違うけど、読み手や書き手の熱量は非常に高い傾向があります。 ――SNSでのシェアが比較的少ないにもかかわらず、現在月間3億PV、130万ユニークユーザーという数字を出しています。ユーザーはどんなきっかけで魔法のiらんどを知るのでしょうか? 最近ユーザーインタビューを実施したのですが、「小中学生のときに魔法のiらんど文庫(サイトから書籍化された文庫)を回し読みしていて知った」と答えた方が数人いました。必ずしもインターネット上で知ることばかりではないようです。 さらに、若いユーザーさんとお話ししたときに、「たまにTwitterなどで魔法のiらんどを“黒歴史”と表現されている人がいますけど、あれはなんですか?」と聞かれたことがありまして。2000年代のユーザーたちはご自身が若いときに作られたホームページを若気の至りのような意味で“黒歴史”と表現される方々が多いですが、現在のユーザーはそういった感覚がわからないようです。 ――現在の若者にとって魔法のiらんどは、かつての印象とはまったく異なるサイトになっているんですね。 実際、ユーザーに直接お会いすると、ごく普通の若者といった印象の方々が多いですよ。文学的な趣味だったり、特別なものというよりも、ごく当たり前にSNSを閲覧するようにインターネットで小説を読んでいる。 なかなかSNSでシェアされないからどんな層か見えてこないところはあるかもしれませんが、実際はいろんな方々が読まれているんです。全国のユーザーの分布も人口分布とほぼ同じで、あまり地域での偏りが見られません。 ――作品を拝見するとみなさん、最初のページにメインビジュアルを設置されていますよね。 YouTubeで“歌い手”と呼ばれる方々が動画にイラストを付けるように、小説でも作家さんがご自身で作られたり、デザイナーやイラストレーターの方に依頼してメインビジュアルを付けることがほとんどです。サイトのトップページに掲載されたとき、どれだけインパクトを与えられるかが重要なので。 最初のころは手描きのイラストや写真を一枚貼り付けただけのビジュアルが多かったのですが、最近はまるで本物の書籍の装丁画のように凝ったものが目立ちます。本文のテキストの色を変えることなどもできるので、デザインにこだわれるのは「ホムペ」の名残と言えるかもしれませんね。