ニア・アーカイヴスが語るジャングルとUK音楽文化の再定義、多文化・多人種的であること
ドラムンベース復興について、ソニックマニアと日本への想い
―エモーショナルジャングリストを自称する通り、あなたの書く歌詞はエモーショナルで内省的です。作詞はあなたにとってどのような意味を持つ行為だと言えますか? アルバムではセンシティブな家族の問題にも触れていますが、心の奥底に秘めていた感情を吐き出すことで浄化されるような感覚があるのでしょうか? ニア:ええ、間違いなくそう。私は感情を表に出すようなタイプではないし、どちらかというと自分の感情をしまい込んでしまいがちだから。音楽を作ることは、自分自身を表現したり、感情を爆発させたりするのに最高の手段だと思う。もちろん、自分の感情から何かが生まれて、それをアートとして表現していくわけだから、その点においても音楽は素晴らしいものだと思う。だから、このアルバムの制作を通して自分が感じているものを消化出来たのはとても良かったし、私の20代半ばという時期をナビゲートしてくれるものになったと思う。そういう意味ではこのアルバムはとてもエモーショナルな作品になっていて。内省的な視点を以てダンスミュージックを作る瞬間というのはとても心地よいし、そこから生まれた作品がまたどんな感情を呼び起こしてくれるのか、っていうのはとても興味深いから。 ―では、このアルバムは具体的にどんなエモーションを捉えたアルバムだと感じていますか? ニア:異なるムードが色々詰まったアルバムだと思う。多幸感、悲しみ、孤独、愛を求める心、無償の愛……色々な感情があるけれど、このアルバムは、そうした感情と一緒に旅をするようなものにしたかった。だから、曲によってフィーリングは違ったものになってる。ハッピーな気分の時はラブソングを、悲しい時や孤独を感じた時は「Crowded Roomz」のような曲を聴きたいっていう、その時々の私の感情が込められてるの。 ―最近はピンクパンサレスやピリ&トミーなどをきっかけに、クラブカルチャーに馴染みがない若い世代もTikTokを通してドラムンベースを聴くことが増えていると思います。非常に興味深い傾向だと思いますが、こうしたトレンドやピンクパンサレスたちが成し遂げたことに対してはどのような考えを持っていますか? ニア:ポップミュージックを聴いているような人たちがダンスミュージックに挑戦するのは、本当にクールなことだと思う。どんなジャンルとの邂逅も素晴らしいことだと感じている。ポップアーティストが、ダンスミュージックをサブジャンルとして捉えていないことを発見する入り口になるかもしれないから。そうした人たちは音楽の奥深さに触れて、音楽のルーツや歴史、その音楽の先駆者について知ることも出来る。だから、そうした形でこのジャンルに光が当たるのはとても良いことだなって。 ―いまはメインストリームのポップミュージックでも、ドラムンベースのビートが使われることが増えましたよね。 ニア:そうね。ここ4年くらい、ドラムンベースのビートを使う人が本当に増えたと思う。ブランドの広告なんかにも使われるようになったし、そうしたクロスオーバーがとても盛り上がっている。それってとても良いことだと思っていて。子ども時代の私のように、そのビートを聴いて、これはなんだ?って興味を示すキッズがいるかもしれないから。私があのリズムが本当に好きだったみたいに、ずっと聴き続けているうちにプロデューサーやアーティストに辿り着いて、そこからジャングルやドラムンベースを発見するかもしれない。そのうち、オーセンティックなアンダーグラウンドミュージックを聴くようになるかもしれないでしょ? だから、私はこの状況をすごくポジティブに捉えてる。 ―イギリスではジャングルやドラムンベースはずっと根強い人気があるジャンルですが、近年、クラブシーンでまた大きく盛り上がっているという実感はありますか? ニア:UKだけじゃなくて、オーストラリアやニュージーランドでもジャングルが盛り上がっているっていうことは意識してた。本当に根強い人気があるから。特にニュージーランドでは、ジャングルはかなり大きなシーンで。ここ数年、ツアーで周っていたから、アメリカのジャングルシーンが大きくなりつつあるのを知ることが出来て良かったし。東欧やアジアでもそう。最近アジアを周って、日本のジャングルシーンを見られたことも嬉しかった。大阪のRyotaとか、日本には他にもクールなDJがたくさんいる。今は本当にジャングルシーンにとって世界的にすごくエキサイティングな時期だと思う。だから、ジャングルを引っ提げて世界中を周るのが本当に楽しみだし、同じような音楽を愛する人たちと繋がるのも楽しみで。 ―では、あなたが音楽面、もしくはメンタリティの面で何かしらシェアしていると感じる同世代のアーティストを挙げるとすれば? ニア:良い質問ね。でも正直、私は自分自身の独自の音楽づくりに集中しているから、自分と他の人たちを較べることはすごく難しくて。尊敬する人たちはたくさんいるけれど、決してその人たちと私が似たようなことをやっているとは思わないし。でも、最近のアーティストで、特に新しいアルバムを出したばかりのチャーリーXCXはすごく好き。彼女の新しいアルバムが大好きだし、彼女が標榜している芸術性みたいなものにとても惹かれる。かっこよくて、すごくアイコニックな存在だと思う。アルバムのキャンペーンもすごくクールだったし。 ―あなたはクラブカルチャーにおける女性やLGBTQ+の地位向上を積極的に訴えています。今後クラブカルチャー全体として、それを成し遂げるために必要なことは何だと思いますか? ニア:一番重要なことは、おそらく音楽を通して伝え続けることだと思う。多様性は色々なことをもっとすごく興味深くしてくれるし、バックグラウンドの違う人たちや違う道を歩んできた人たちがいることで、より包括的で包容力に富んだものにしてくれる。それに、自分の好きなことやずっとやりたかったことをやっている人たちを見れば、自分もそれに打ち込んでみようという気になるかもしれないでしょ? だから、もっと代弁者が増えれば、物事はもっと面白くなると思ってる。 ―ソニックマニアで早くも二度目の来日が決まっています。どんなステージを期待していいですか? ニア:日本でまたプレイ出来るのが本当に楽しみで。日本のフェスティバルでプレイしたことがないから、ずっとやってみたいと思ってたし。前回(昨年9月)は東京と大阪ですごく楽しい時間を過ごしたから、もうすぐ戻って来られることにすごく興奮してる。前回は200人キャパくらいの狭い箱で、すごく暑くて汗びっしょりになっちゃったから、今回はフェスティバルのステージでプレイ出来るのが嬉しい。映像も一緒に持って行けるように、今年に入って友だちが手掛けてくれたの。私のフェスティバルでのエネルギーを日本に持ち込めることにとても興奮しているし、日本のフェスティバルは初めてだから、どんな風に受け入れてもらえるかワクワクする。それにもちろん、ラインナップに加えてもらったことに本当に感謝しているし。 ―今回はDJセットになるのでしょうか? それとも、最近披露しているバンドセットも取り入れる予定ですか? ニア:楽器は入らないけど、DJしながら同時に歌うから、ちょっとしたハイブリッドという感じね。なかなかのマルチタスクなんだけど、私の作る音楽には合っているスタイルだと思う。客席を盛り上げつつ、自分の歌を歌ってパフォーマンスも披露出来るから。私自身、すごく興奮しているし、きっとソニックマニアにぴったりだと思う。 ―同じイギリスからはアンダーワールドとヤング・ファーザーズも出演しますね。 ニア:アンダーワールドは大好き。彼らは本当にすごいし、出演時間が重なっていなければ、彼らのセットを観られたらすごく嬉しいな。ヤング・ファーザーズのことは、最近リリースしたアルバムで知ったの。彼らもとてもクール。だから本当に超楽しみ! --- ニア・アーカイヴス 『Silence Is Loud』 発売中 SONICMANIA 8月16日(金)幕張メッセ 開場:19:00/開演:20:30
Yoshiharu Kobayashi