ニア・アーカイヴスが語るジャングルとUK音楽文化の再定義、多文化・多人種的であること
「イギリス的」とは多文化・多人種的であること
―内省的な歌詞やメロディとパワフルなビートを掛け合わせるという方法論が、あなたの曲作りのベースにあるわけですが――。 ニア:その通り。そういうコントラストがとても好きなの。 ―あなたにとってこの2つを融合させるのは当たり前のことですか、それともチャレンジだという意識があるのでしょうか? ニア:私にとってはとても自然なことだと感じてる。私はメランコリックな音楽もとても好きで、多大な影響を受けているのは、おそらくエイミー・ワインハウスね。彼女は本当に悲哀に満ちた、深い歌詞をハッピーなビートに乗せた曲を書いているから。私は常にそういう悲哀をアップビートで覆い隠すようなコントラストを採り入れたプロダクションが好きで。それに私自身、曲を書くことをとても楽しんでいるしね。 ―なるほど。では、ソングライターやシンガーとして影響を受けたのはエイミー・ワインハウスだと言えます? ニア:やっぱりエイミー・ワインハウスかな。それと、私はレディオヘッドに多大な影響を受けていて。トム・ヨークが大好きなの。それにもちろんブラーもだし……他に誰がいたかな、思い出せない(笑)。グレイス・ジョーンズも好きだし、エリカ・バドゥもね。それこそたくさんいる。私は違ったタイプの音楽を色々と聴いてきたから。 ―中でも、自分の歌唱スタイルにもっとも影響を与えた人というと? ニア:良い質問ね。たぶん、エイミー・ワインハウスじゃないかな。正直に言って、私は彼女の音楽をかなり熱心に聴いて育ったから。それに、若い時はジャズもよく聴いていて。ロネッツも大好きなの。ロネッツのような60年代のモータウンも、すごく大きなインスピレーションを与えてくれた存在。ダイアナ・ロスもそう。だから、エイミー・ワインハウス、ロネッツ、シュープリームス時代のダイアナ・ロスの中間っていう感じかな。 ―デビューアルバムの『Silence Is Loud』は、フロア映えするジャングルの強力なビートがありつつ、これまで以上にソングライティングを重視した作品だと感じました。 ニア:ええ。このアルバムで私は、異なるジャンルの音楽をジャングルに乗せるという実験を試みていて。そういうことは以前から探求していたんだけど、今回はそれをより深く掘り下げることに挑戦している。 ―このアルバムには、ブリットポップの影響があることも公言していますが。 ニア:ブリットポップというよりも、よりギターサウンドが前面に出ている感じというか。「Cards on The Table」はかなりブリットポップっぽいヴァイブがあると思うし、「Unfinished Business」もそう。これは、キングス・オブ・レオンに多大なインスピレーションを受けていて。私は彼らのローファイなギターのサウンドプロダクションが大好きだから。それにおかしなことに、フー・ファイターズなんかもね(笑)。それと、私は2000年代のポップミュージックもよく聴いていて。ナターシャ・ベディングフィールドとか。彼女は2000年代、本当に素晴らしいポップソングを書いていた。ソングライティングの面において、彼女には多大な影響を受けていると思う。 ―ギターサウンドを全面に出すにあたって、インディ畑のアーティストで、今回の共同プロデューサーであるイーサン・P・フリンは助けになりましたか? ニア:ええ。このアルバムをイーサンと一緒にプロデュース出来たことは素晴らしかった。彼はものすごい才能の持ち主で、色々な楽器を操るマルチプレイヤーでもある。彼自身のアーティストとしてのプロジェクトも本当にすごいし。彼はシンセサイザーのようなハードウェアを色々用いてスパイスを足してくれた。彼が作ったサウンドは、とある瞬間に出来たものを閉じ込めているから、もう二度と同じようには作れないの。だから、彼と一緒に仕事をしたことは間違いなく私の作品をもう一段上に押し上げてくれたし、それは彼なしでは実現しなかった。彼と一緒に仕事をすることが出来て、本当に良かったと思ってる。 ―「Silence is Loud (Reprise)」はイーサンの助言で作られた曲だそうですね。 ニア:あの曲はアルバムで一番の挑戦だったな。私の曲の中で、唯一ジャングルのドラムが使われてない、ピアノによる純粋なインストゥルメンタルに、私の声が乗っているだけだから。私は感情的な歌詞を表現する時、敢えてブレイクビートの後ろに隠してしまうことがあるの。だから、この曲は私にとって大きな挑戦で。クレイジーなジャングルトラックを作るという考えから抜け出して、基本的にピアノだけのバラードのような曲を作るというのは、また他とは違ったチャレンジだったと思う。 ―アルバムのアートワークや最新のアーティスト写真では、ユニオンジャックのイメージを意識的に使っていますよね。イギリス的であるということは本作のテーマのひとつなのでしょうか? ニア:そうね。ジャングルは明らかにイギリスの音楽だし、私自身もイギリス人だから。ユニオンジャックの旗は、パンクミュージックやパンクカルチャーに触発されたものだと思うし、そういう使われ方をされてきたと思う。でも、こういう非常にイギリス的なイメージに対する反応というのはとても興味深くて。色々な人の色々な意見に触れるのは、本当に面白かったな。 ―イギリスは人種のメルティングポットであり、それこそジャングルをはじめ、多人種・多文化の融合で生まれた音楽もたくさんあります。その意味でイギリスはエクレクティックな国だと言えますが、あなたの言葉でイギリスらしさを定義するとどのようになりますか? ニア:それは常に進化しているんだと思う。もちろん私はイギリス人だから、イギリスを代弁するべきだとは思うけど、あなたが言ったように、イギリスはとても多文化な国だから。イギリスをイギリスたらしめているものはたくさんあると思っていて。特に音楽に関して言えば、インディ、ロック、ポップ、ダンスミュージックと色々なタイプの音楽があるし、アートの面でも本当にたくさんの素晴らしいアーティストがいる。すべてを語り尽くすことは出来ないけれど、イギリス出身のアイコン的存在はたくさんいて、私も間違いなくそういう人たちからインスピレーションを得ているの。 ―あなたは以前から、クラブミュージックが黒人文化にルーツを持つことを強調してきました。その一方で、本作ではブリットポップをはじめとするインディロックのような白人中心的だった音楽文化にも愛情を表明しています。そのように人種を超えて多様なルーツに対して敬意を払うことが重要だという意識は、このアルバムに込められていると言えますか? ニア:ええ、間違いなくそうだと思う。私は明らかにイギリスのブラックミュージックに影響を受けているけれど、白人のイギリス人アーティストの中にも尊敬していて、愛してやまない音楽を作る人たちがたくさんいるから。この作品は、そうしたアーティストからもすごく大きな影響を受けている。カルチャーとサウンドのメルティングポットがとても好きなの。そういうものが私の人生の大部分を占めているし、このアルバムの制作にも大きな役割を果たしていると思う。 ―デュア・リパは新作にブリットポップの影響があることを公言していて、AGクックもブリットポップをモチーフにしたアルバムを作りました。レイチェル・チヌリリもブリットポップの現代版だと言われています。今年になってイギリスの若いアーティストがブリットポップを取り上げることが増えたように感じますが、こうした状況に対する意見を教えてください。 ニア:すべてのことは一定のサイクルで巡っているんじゃないかな。20年か30年のサイクルかどうかは分からないけど、その中でブリットポップはまた、最初のブームの頃から戻って来ているように思う。だから、AGクックのような人たちがブリットポップ的な音楽を作っているというのは、すごくエキサイティングなことだと思う。単なる流行で終わらせないような気がするから。2回目のブームはどんなサウンドを生み出すのか、当時とはどんなところが違っているのか? そういうものを聴けることにとてもワクワクしてる。もちろん、90年代後半とは明らかに違ったサウンドになっているはずだし。新しいアーティストが、彼らなりにどんな解釈でサウンドに落とし込むのか、それを見守るのがすごく楽しみ。