円安だから株高という「因果関係説」に疑問 現状は「同時進行説」が有力
通貨と株価の関係「同時進行説」とは?
以上3点を踏まえた上で「通貨と株価」の関係について、筆者なりの答えを示します。それは「同時進行説」です。 「投資家が株を買いたいとき=投資家が円を売りたいとき」 当然のことながら、株価は景気の良いときに上昇します。他方、超低金利(マイナス金利)の円は世界景気が改善するとき、すなわち、投資家のリスク許容度が高まるときに売られる傾向があります。それは投資家が少しでも金利の高い(より厳密には高くなりそうな)通貨におカネをシフトする傾向があるからです。それゆえ、円と似たような性格を持つスイスフランも同様の理由で世界の景気が改善するときに売られる傾向があります。 日本とスイスは(1)マイナス金利、(2)経常黒字国、(3)巨額の対外純資産保有国という極めて稀な性格を有するため、その値動きも似通ったものとなり、その結果として日本とスイスにおいて「通貨安・株高」という関係が成立しているものと考えられます。要するに投資家が円やフランを売りたいときは、世界経済が回復して企業収益が好転するときに一致しているため、その結果として株価上昇と通貨安が同時進行している可能性が高いというわけです。 円安→企業収益拡大→株高という因果関係が作用していること自体は否定しませんが、通貨安が株高の「主因」であると決め付けることには一定の注意が必要です。因果関係説に距離を置いて、同時進行説で考えれば円安が不利に働く企業の株価が円安局面で上昇すること、輸出で競合する韓国において「ウォン高・株高」の関係が成立することも上手く説明がつきます。韓国ウォンは1997年に通貨危機に見舞われたことが象徴するよう、米ドル、円、スイスフランに比べて安全性に劣る通貨ですから、投資家は世界の景気が悪くなるとリスク管理の観点からウォンの保有を減らしていると考えられます。そしてそのような局面は、リスクの高い株式の保有を減らしたいときに一致するので、結果として「ウォン安・株安」が同時進行しているものと考えられます。また、因果関係説に固執して日本株を議論すると、円安が未来永劫続くことが株価上昇の絶対的条件になってしまい短絡的な結論に陥る可能性が危惧されます。 2017年に入って円安・株高の関係が崩れつつあるなかで為替と株価の関係がしばしば議論されていまが、何らかの構造変化で「円高・株高」の復活、あるいは「無相関」の関係に移行する可能性は常にあります。このように株価と為替のかい離が目立ったときなど、定期的に両者の関係を見つめ直すことが重要と考えます。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。