マツゲハブの新種5種を発見、“まつ毛ヘビ”に驚きの多様性、「まだ始まりにすぎません」
灰色、赤ワイン色、コーヒー色、青緑色、「クリスマス色」も ヘビの保護や人命救助でも重要な発見、中南米
中南米に生息するマツゲハブには様々な色の個体がいることで有名だ。同じ親から一緒に生まれたきょうだい同士でも、体の色が全く違う場合もある。灰色、赤ワイン色、コーヒー色、明るい青緑色、なかには緑、赤、白が混じった「クリスマス色」の個体までいる。 ギャラリー:新種の5種ほか、色とりどりのマツゲハブの写真8点 それでも、これまでマツゲハブは1種のヘビとして分類されてきた。だが、2024年2月8日付けで学術誌「Evolutionary Systematics」に発表された論文によると、マツゲハブ(Bothriechis schlegelii、英名Eyelash Palm-Pitviper)として知られているヘビには、1種だけでなく複数の種がいることが明らかになった。
「これがマツゲハブであるはずがない」
2013年、生物学者のアレハンドロ・アルテアガ氏は、南米エクアドルのミンドに生息する両生類と爬虫類の本を共同で出版した。表紙には、美しいライム色をしたマツゲハブの写真が使われた。 ところが、この本をコスタリカとパナマにいる科学者の友人たちに見せたところ、そろってマツゲハブの写真を驚いて「二度見」したという。 「『これがマツゲハブであるはずがない。この辺で見るマツゲハブとは全く違う』と全員から言われてしまいました」。アルテアガ氏は、当時を振り返ってそう語った。 アルテアガ氏とその同僚は、表紙のヘビをじっくりと見直してみた。すると、見れば見るほど違いがはっきりしてきた。言われてみれば、この写真のヘビには「マツゲハブ」の名の由来となった、目の上にあるまつ毛(eyelash)のようなウロコすらないではないか。 そこで、博物館に所蔵されていた400の標本や、メキシコからエクアドルまで野生で捕獲した80匹を詳しく調べた結果、アルテアガ氏の研究チームは、体と遺伝子の特徴を組み合わせて、5種の新種を特定した。これらに加えて、今回の論文では近縁のヘビの分類も見直し、計10種からなる”まつ毛グループ(分岐群)”を提唱している。 5つの新種は、クレッバマツゲハブ(B. klebbai)、シャーマツゲハブ(B. rasikusumorum)、クワルグマツゲハブ(B. khwargi)、ラヒムマツゲハブ(B. rahimi)、フサインマツゲハブ(B. hussaini)と名付けられた。 論文の筆頭著者で、エクアドルの生物多様性を守る取り組みをしているNGO「カマイ財団」の代表を務めるアルテアガ氏は、「これはまだ始まりにすぎません」と話す。 その言葉通り、現在もアルテアガ氏のグループは、少なくともあともう1種、新種を特定するための証拠集めを続けている。 新種の発見は、ヘビを保護するためだけでなく、私たち人間の命を救うためにも重要だ。